SDGsと共鳴する
カトリック精神が根付く教育理念
伝統ある国際教育や精力的な部活動で名をはせる光ヶ丘女子高等学校は、SDGsの取り組みでも注目を集めている。
創立時から連綿と受け継がれてきたカトリック系ミッションスクールとしてのキリスト教精神。ボランティアやリサイクル、募金など社会貢献活動に積極的な校風がSDGsに挑戦する土壌となった。
そもそもSDGsを意識したのは、2015年の国連サミットが発端だという。フランシスコ第266代ローマ教皇が環境問題や貧困の解決に向けた演説を行ったのだ。「誰一人取り残さない」ことを誓うSDGs。そして多くの人を温く照らす「光」になることを目指す「人の、光に。」という教育理念。2つが共鳴し、光ヶ丘女子高等学校はほかに類を見ないようなSDGs活動を次々と生み出している。
進むSDGsの校内普及
光ヶ丘女子高等学校におけるSDGs教育の普及に大きく貢献したのが、社会科と福祉科を担当する尾之内童教諭だ。SDGsについてのシンポジウムに参加し、大きく感銘を受けたことが、教育への導入を考え始めたきっかけだと語る。
「経済や環境、人権問題などのあらゆる社会問題をつなげて考える発想に、魂を揺さぶられるような感動を覚えました。持続可能性を意識する姿勢を、次世代の担い手である生徒たちにすぐにでも知ってもらいたいと感じたのです。本校はもともと、グローバルや社会貢献に対する意識が強い学校です。生徒たちがSDGsを学ぶことで、おもしろい『化学反応』が生まれると直感しました」
その後は教科学習やクラブ活動などさまざまな場面でSDGsを絡めた活動を行った。生徒たちだけではなく、教員向けのSDGs講習も実施したという。
「初めはSDGsに対する理解度の差がありました。しかし、生徒たちが真摯に向き合う姿に触発され、教員たちもSDGsが教育に与えるポジティブな影響を実感するようになったのです」
持続可能な社会の実現に無関係な人はいないという考えは校内に浸透し、今では校内の誰もが物事を考える際に自然とSDGsを意識するまでになった。
2020年には学校全体のSDGsプロジェクトを体系的に管理するための「SDGs推進委員会」が発足。さらに、今年度の総合探究の時間には「SDGs大学プロジェクト」という取り組みもスタートした。その狙いはSDGsを手段として考え、社会課題の解決が未来に与える影響を考える「デザイン思考」を育てることにある。生徒たちは希望の分野について学べる「学部」にクラスを横断して所属し、取り組むべき課題を自発的に考えて活動している。光ヶ丘女子高等学校にとって、SDGsは連綿と受け継がれてきた教育理念を現代へとアップデートするツールなのだ。その活動は学内だけにとどまらず、大きな広がりを見せている。
生徒のアイデアから生まれた
プロジェクトが社会へと飛び出す
いくつもの特徴的な取り組みを行う光ヶ丘女子高等学校だが、特に注目を集めたのがSDGs探究AWARDS2019最優秀賞を受賞したジェンダー・プロジェクト「『竹』× SDGsでジェンダー平等をめざす!〜ウガンダを例に〜」だ。その始まりは、国連女性機関(UN Women)と株式会社資生堂による「ジェンダー平等へ向けてのプロジェクト」への参加だった。メンバー募集に応じて集まったのは、偶然にもSDGsのゴール数と同じ17名の生徒たち。ジェンダー問題について「女性の教育格差の解決」という観点で話し合いを進める中で、貧しい国の女性が学校に行けない理由の1つに「生理用品の不足」があることを発見した。そこで生徒たちが考案したアイデアが、自然由来でサステイナブルな素材の「竹」を原料とした生理用品を作ること。世界中に存在する「竹」を原料とすることで、貧困状態にある地域でも調達できるようにし、新しい産業の育成と雇用機会を創出する狙いも兼ねて発案したのだ。
このアイデアのプレゼンテーション動画をUN Womenに提出したところ、高い評価を受け、全国代表として国際連合大学での発表機会を得る。さらに、同プロジェクトを知ったJICAウガンダの担当者から紹介を受け、ウガンダで自然由来の生理用品を作る団体「Eco Smart」に向けて英語版のプレゼンテーション動画も届け、Skypeによる英語ミーティングも敢行した。その後、ラジオ出演や地域の中学校での講演会を通して取り組みを広めるとともに、大手生理用品メーカー等の企業に商品化を持ちかけるなど精力的に活動。メンバーは卒業後に団体「MWANGA」を立ち上げ、「サステイナブルな生理用品」の開発を続けている。将来的には法人化も見据えているという。
SDGs is a Prism
世界中で猛威をふるう新型コロナウイルス感染症の影響でフィールドワークなどの活動が制限される現在。理想の教育ができないもどかしさを感じる一方で、尾之内教諭はこの状況さえも「SDGs的発想」で臨むべきだと考えている。
「新型コロナウイルス感染症を疫学的視点だけで捉えてはいけません。これまでの活動を通して身につけたSDGs的な視点を生かし、外出自粛で増加するジェンダー格差の問題や、ワクチン接種における国際的な格差の問題など、さまざまな側面に目を向けるよう生徒に伝えています」
SDGsの発想で、問題を多面的に把握する。この活動のコンセプトは、コロナ禍を機に生み出された「SDGs is a Prism」という言葉に結実した。1つの光を虹の7色に分光させるプリズムのように、1つの問題を多側面から探究し、解決へと導く。そうしたスキルを身に付けた生徒たちが、世界にとって希望の光となる「虹」を架けること。これこそが新たな目標だと尾之内教諭は語る。
SDGsが生徒たちの輝きに
生徒たちにとって、SDGsの活動によって生まれた学年間や学校間の交流は刺激になり、参加するイベントで出会う大人たちからの言葉がモチベーションとなる。力を入れて取り組みを続けることで、SDGsに対する意識は向上し続けている。今ではSDGs活動に惹かれて入学する新入生も増加し、新たなプロジェクトを立ち上げる際の校内説明会には100名以上の生徒が集まるようになった。
SDGsを学ぶことで生徒自身が輝くことはもちろん、その学びが世界の未来を変える力となる。自らの輝きによって他者を照らす「人の、光に。」という教育方針が、まさにSDGsを取り入れた教育により実現されているのである。尾之内教諭は生徒への思いを話す。
「未来は今の延長線上にしかありません。一歩踏み出す勇気を持って、今、未来を変えるための行動を起こしてほしいです」
掲載紙
今回の記事は、東洋経済新報社と株式会社WAVE/WAVE・SDGs研究室が制作した「東洋経済ACADEMIC SDGsに取り組む幼・小・中・高校特集」に掲載されています。
東洋経済ACADEMIC SDGsに取り組む幼・小・中・高校特集
持続可能な未来をつくるSDGs・ESD教育の実践
SDGsが国連で採択されて約6年。2030年の目標達成に向け、世界は「行動の10年」へと歩みを進めている。
一人ひとりの行動がいずれ世界を変えうる現代、未来を創造する鍵となるのは「教育」だ。初等中等教育現場の現場における変革は著しく、SDGsを実現する取り組みが多様化し、「持続可能な社会の創り手」の育成の場として注目を集めている。
本誌では、教育を通してSDGsを実現している事例を紹介し、SDGs・ESD教育の深化と多様性を象徴する初等・中等教育の真価に迫る。
PICK UP!
❶SDGsアルファベットカード
2020年に小学校の英語教育が必修化され子どもの頃から英語を学ぶことの重要性がさらに高まっている。その一方で、地球の未来の担い手を育てるESDもますます重要に。このような初等教育における近年の動きを踏まえ、本校では英単語とSDGsを楽しみながら一度に学べるアルファベットカードを制作している。例えば「Food」という英単語カードに、ゴール2「飢餓をなくそう」と関わりのある食品ロスの問題についての話題をわかりやすく盛り込むなど、子どもたちがSDGsに関心を向けるきっかけ作りを目的としている。
❷廃油キャンドル
揚げ物の調理後に必ず出る廃油。いずれは捨ててしまう廃油をかわいらしいキャンドルへとリメイクする企画を考案。「光ヶ丘」の由来である「世の光となれ」という聖書の言葉ともリンクする、シンボリックな取り組みとして進めている。この取り組みを通じて、捨てられるものに新しい命を吹き込み、その灯が世界を照らす希望の光となることを願っている。
❸SDGsスタンプラリー
本校の特徴的な施設を紹介する校内探検や施設見学をスタンプラリー形式で実施した。スタンプ設置場所では、施設に関連する「光ヶ丘×SDGs」の取り組みやそのゴールにまつわるクイズを出題。答えを集めてキーワードを答えると、フェアトレードのオーガニック・ビスケットがもらえる仕掛けとした。“校内を探検する”という体験の中に、SDGsに対するさまざまな気づきや発見を提供する機会となっている。
❹SDGs七夕
日本の伝統行事のひとつである“七夕”に関連させて、SDGs達成への啓発を図ろうと「SDGs七夕」を実施。17のゴールがデザインされた短冊に、ゴールに結びつく「2030年までに実現したいこと」を記入し、大きなパネルに掲示を行った。他にも「七夕でSDGs」と題して“竹”や“星空”をキーワードとしてSDGsに関わる記事を全クラスに掲示するなど、七夕を切り口に世界の課題を分析し、解決に向けて多角的に考える機会を創出した。
❺SDGsカレンダー&SDGsフォーチュン
生活の中で世界の課題や地球の未来を考え、自分がどう貢献できるのかを考えてもらうことを目的に、本校での一年間の学校生活・行事とSDGsのつながりを表現したカレンダーを制作。何気ない日常の中にあるSDGsを見つけ、自分事として考える視点を発信した。この企画は、学校内やショッピングモールなどで、小中高生が日常生活でできるSDGsの提案と169ターゲットをおみくじを用いて紹介する「SDGsフォーチュン」としてさらに取り組みの幅を広げている。