SDGsゼミリポート | サステイナブルな未来を多様な視点で探求する

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1つのものさしで 測れない世界を自分なりに知り、捉え、 行動する――【2020年ノーベル平和賞受賞 国連世界食糧計画(WFP)日本親善大使】知花くらら

国連世界食糧計画(WFP)オフィシャルサポーターを経て、2013年より日本親善大使として国際協力活動に注力してきた知花くらら氏。現地を訪れて感じた世界のリアルやSDGsの実現に向けて私たちに必要なこと、その先に描く未来について話を聞いた。

世界のリアルに触れ
真に必要なケアを考える

 私は大学時代から、世界中の子どもたち、特に女子に対する教育をより普及させるにはどうすればいいかを模索していました。そんな中、WFPの方々にお話を聞く機会があり、その活改善されましたが、目で見て肌で感じた厳しい現実に、大きなショックを受けたことを今でも覚えています。
 この経験は、日本という豊かな国で育った私の中に「自分のものさし」が根付いており、その基準や価値観をそのまま世界に当てはめようとしていた事実に気づかせてくれました。それ以降の視察では彼らと同じことを体験し、同じものを食べる中で、現地の方々の「ものさし」を理解し、本当に必要なケアを行えるように注力しています。
 これからも実際に足を運びながら〝世界のリアル〞を学び、現地の方々の本当の思いやニーズに応え続けていくつもりです。

SDGsによって生まれた
世界規模での「うねり」

 WFPの取り組みに参加す動内容に関心を抱いたのです。中でも子どもたちに給食を用意する食糧支援が、就学率改善へとつながることに感銘を受け、WFPの活動を通して教育普及に貢献したいと考えるようになりました。
 これまでの活動で最も印象的だったのは、初めての現地視察でアフリカのザンビアを訪れたときのこと。そこには清潔な水や電気、病院、道路など、人として生活するうえで私たちが当然必要だと思うものが何もありませんでした。例えば水は、沼に溜まった雨水を子どもたちがバケツですくい、村まで運びます。バケツの底には泥が溜まっているため、上澄みだけを活用していましたが、虫がたくさん浮いていて決して清潔とはいえません。実際におなかを下すケースも多いと聞きました。その後、井戸ができたことで水環境はるようになった当初、私たちが目指す社会は理想郷だという指摘も外部からあり、広く理解を得ることが難しいと感じる瞬間もありました。
 しかし、2015年にSDGsが採択され、さまざまなメディアに取り上げられる中で、WFPが行っているような社会貢献・支援活動に対する理解も年々深まってきたように感じます。
 また、2020年にWFPがノーベル平和賞を受賞したことも、活動の認知や理解の一助になりました。日本では、他の機関と比べてWFPに対する認知度が低いと感じていたため、皆さんがW F P を知るよいきっかけになったのではないでしょうか。長年職員たちの地道な努力を間近で見てきた私としては、受賞の報せを聞いたときは涙が出るほど嬉しかったです。

 SDGsという世界的な「うねり」は、企業活動にも大きな影響を与えています。以前から企業のCSR活動として社会貢献への取り組みも見られましたが、利益につながらないため、チャリティーという枠の中で終わってしまっている印象がありました。しかし、SDGsという世界共通の指標が示されたことで、社会問題への取り組みが企業価値の創造、ひいては利益につながる仕組みが生まれ、企業の成長と社会問題の解決を両立できるようになったのです。利益の追求は企業として健全な姿勢であり、持続可能な事業活動を行うための重要な要素であると思います。

海外で見た女性の力強さと
日本の女性をとりまく環境

 10年以上にわたり、WFPの活動に携わってきましたが、モチベーションの中心には「女子教育をより普及させたい」という思いが常にありました。その決意をさらに強くしたのが、どのような状況においても逞しく生きる女性、特に母親たちの姿です。
 内戦停止直後のスリランカを視察した際、銃撃を受けた村の一角に集まる女性たちが目に留まりました。村で唯一文字を書くことができる女性が、村民の名前を紙に書き出して生存確認を行い、これから何をするべきかを話し合っていました。彼女たちに、「今一番必要なものは何か」と尋ねると、「小さな商店を始めるための元手にするお金を貸してほしい」との答えが。家や食べ物という私の予想を裏切る答えに、心底驚きました。苦しい状況下でも、目先の食や安全の確保だけでなく、これから自分たちが生きていく術について考える。そこに女性たちの強さを痛感したのです。その根底には、子どもを産んで育てなければならないという気持ちから生まれるバイタリティーがあると思います。

 世界各地で力強く生きる女性たちとの出会いを通し、女性のエンパワーメントは自然なことで、あってしかるべきだと改めて実感しました。世界で活躍するWFPの職員たちを見ると、ジェンダーの垣根なく働いています。女性職員の仕事の都合で、男性のパートナーが赴任先についていくことも珍しくありません。WFPには、お互いの立場を理解し、尊重する風土が根付いています。
 日本では、女性の社会進出が進むようになったとはいえ、子どもを持つ女性が働くことには、まだまだ大きなハードルが横たわっています。私自身も母として、必要なときに必要なサポートを受けることができず、子育てと仕事の両立に難しさを感じたときもありました。力強いエネルギーを持つ女性たちが制限されず、よりいっそう活躍できる風土が醸成されていくことを切に願います。

SDGs達成の先に、
支援が必要のない未来を描く

 現在、新型コロナウイルス感染拡大の影響により渡航が難しい状況が続いています。私はこうした中だからこそ、改めて世界で何が起こっているかを知ることの大切さについて発信したいと考えています。皆さんもまずは、「海はきれいなほうがいい」「ゴミを減らしたい」「フードロスを少なくしたい」など、生活をするうえで感じる自らの興味関心に目を向けてみてください。そして、インターネットや本などを活用して、情報を集める。現代は、SNSの発達により非常にタイムリーな情報を手に入れることができます。世界と瞬時につながり、世界各国の映像を手軽に見ることも可能です。あらゆるメディアを駆使し、世界の実情に自ら触れることがSDGs達成に向けた最初の一歩として大切なのです。「行動の10年」を踏まえ、今できることを共に考えていきましょう。


 SDGsの取り組みを加速させるのは、一人ひとりの行動にほかなりません。これは開発途上国など、支援される立場にいる方々においても同じです。支援はいつまでも続くものではないという考えを前提に、自分たちの未来のために自分たちで行動を起こす。自助が進み、支援が必要なくなることが、私が考えるSDGsの真のゴールです。
 自助のベースとなる知識やスキルを育む教育環境が整い、現地の人々が自分の足で立つ。さまざまな支援を通して、その実現に貢献することが、私たちの活動意義だと確信しています。

<プロフィール>

知花 くらら Chibana Kurara

1982年沖縄県生まれ。モデル。上智大学文学部教育学科卒業後、2006ミス・ユニバース世界大会第2位に輝き、各メディアで活躍。2007年、WFPオフィシャルサポーターに就任し、13年より日本親善大使。南部アフリカのザンビア共和国やフィリピンなどへ行き、WFPの支援現場を視察するなど意欲的に国際協力活動を続けている。

掲載紙

今回のインタビューは、東洋経済新報社と株式会社WAVE/WAVE・SDGs研究室が制作した「東洋経済ACADEMIC SDGsに取り組む大学特集 Vol.3」に掲載されています。

東洋経済ACADEMIC
SDGsに取り組む大学特集 Vol.3

-アフターコロナの次代へ
SDGsの実践で変革する社会

SDGsが国連サミットで採択されてから約6年が経過し、2020年から「行動の10年」がスタート。SDGsが世間に浸透し始め、大学や企業による実践が加速する中、折しも「コロナ禍」によって、旧来の社会システムを抜本的に問い直し、真に持続可能性な世界を希求する機運が高まっている。本誌では、社会混乱に対応しながら教育を提供し、地球規模の課題に取り組み続ける教育研究機関・大学の姿をレポートする。また、産業界やアカデミズムから生まれつつある、次代を切り拓く鍵となる新指標やアイデアを考察し、未来社会のあり方に迫る。