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【TYPICA】コーヒーのダイレクトトレード実現にDXで挑む

なるほど!

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DXやAIが活躍するのは、研究などの限られた分野だけではない。 私たちの身近な暮らしに生まれる、新たな価値に迫る。

サステイナブルを叶え 本来の美味しさを届ける

安価で気軽に楽しめるものとしてコーヒーが普及する裏側で、生産者の貧困が問題視されている。そのような中で、コーヒー業界を中心として注目を集めているのが、ダイレクトトレードのコミュニティーを提供するTYPICAである。

「国際市場で定められた価格によって先物取引が行われるコーヒーは、生産国の実状にかかわらず安価で売買され、生産者が十分な利益を確保できずにいます。 TYPICAは、生産者と、仕入れた豆を焙煎して販売するロースターをつなぐデジタルプラットフォームです」。 そう語るのは、創業者の一人である山田彩音氏。2019年、「美味しいコーヒーのサステイナビリティを高める」という目的のもと、TYPICAはスタートした。扱うのは、良質な体制によって生産された高品質な「スペシャルティコーヒー※」のみ。個性のある多種多様なコーヒーは、ロースターからの評判も高い。生産者は自ら決定した価格でロースターと直接取引を行うため、利益の確保が可能となる。今や日本だけでなく、世界各国においてTYPICAのサービスは展開されている。

※スペシャルティコーヒー…消費者(コーヒーを飲む人)の手に持つカップの中のコーヒーの液体の風味が素晴らしい美味しさであり、消費者が美味しいと評価して満足するコーヒーであること。日本スペシャルティコーヒー協会は、生産国から消費国にいたるコーヒー産業全体の永続的発展に寄与するものとし、スペシャルティコーヒーの要件として、サステナビリティとトレイサビリティの観念は重要なものと考える。 (日本スペシャルティコーヒー協会〔SCAJ〕「スペシャルティコーヒーの定義」より抜粋)

生産者とロースターの接点を生む

山田氏がTYPICAを創業した理由は、自身がロースターとして働いていたときに抱いた「確信」だったという。

「生産地や生産者を大切にしながら消費者に美味しい一杯を届けるスペシャルティコーヒーのコンセプトを知り、すばらしいと感じました。ただ、同時に、現状に対するやり切れない気持ちも芽生えたのです」

多くのロースターにとって、実際に現地を訪れて生豆を選ぶことは難しい。大抵は商社を介して、限られた仕入れ先から豆を選択している。しかし、直接生産者の声を聞き、人柄や考え方を知ったうえで仕入れ先を選べる仕組みがあれば、高品質な生豆の選定と生産者支援が同時に可能になると、山田氏は考えた。

「生産者と接点を持つことで、より本質的なスペシャルティコーヒーを届けたい。そう願うロースターは自分以外にも大勢いると確信していました」

確信が成功への自信につながったからこそ、山田氏はサービスの実現に向けて歩を進めた。具現化のためには、デジタルの力は不可欠。そこで、もう一人の創業者、デジタル分野に強い起業家の後藤将氏とタッグを組み、コーヒー業界におけるDXの可能性を見いだしたのだった。

「インターネットに不慣れな生産者の方々にサービスを理解してもらうまでは、時間がかかりました。今では、販売相手の顔がわかることで、仕事をする意義が生まれたとの声もあり、有意義に活用していただいていると感じます」 TYPICAがもたらすのは、ダイレクトトレードによる物質的な利点だけではない。生産者とロースターの双方が求めていた精神的なつながりを生み出し、業界の永続的な発展へと貢献している。

<プロフィール>

山田 彩音 TYPICA 創業者

立命館大学文学部卒業後、焙煎士としての経験を積み、2019年TYPICAを起業。

掲載紙

今回のインタビューは、東洋経済新報社と株式会社WAVEが制作した「東洋経済ACADEMIC 次代の教育・研究モデル特集 Vol.1」に掲載されています。

東洋経済ACADEMIC 次代の教育・研究モデル特集 Vol.1未来社会を担うDX・AI その真価を解き明かす

東洋経済ACADEMICシリーズから【DX・AI】に関する書籍が発刊。
Sociaty5.0で示される日本社会の未来を実現するために、社会課題解決に資する人材育成、研究が現在ほど求められている時代はない。今日、ウィズコロナ時代に向けて、DX推進・AI活用は、産業界のみならず、教育界の先進分野として世界の注目を集めている。文部科学省をはじめとする各省庁の動きからも、データサイエンス教育やデジタルとフィジカル融合型の研究手法への支援は力強く展開中である。本誌では、教育・研究の場におけるDX推進・AI活用を実現する多様な事例を紹介し、それらを加速・推進する次世代教育・研究モデルの核心に迫る。