将来の世代が必要とするものを損なうことなく、現代の世代の要求も満足させるSDGs。実現に向けて前進するためには「今」に目を向けるだけではなく、「未来世代との連携」の視点を持つことが不可欠だ。
そして、持続可能な社会を構築するための道は一つではない。デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進や環境保護、住みやすい街づくりなど、多様な主体がサステイナビリティを意識して独自のアクションを展開している。
最先端の技術を活用することで 臨場感溢れる校外体験を実現
関西学院大学教育学部の丹羽登教授は、富士通株式会社などと連携して2019年度に「5GやVR・水中ドローン等の先端技術を活用した遠隔授業プロジェクト」を実施した。プロジェクトのメインとなったのが、水族館と連携した遠隔校外学習だ。入院中の子どもたちが、病院から水族館の大水槽内にある水中ドローンを遠隔操作したり、水槽内のダイバーが手にした360度カメラの映像をVRゴーグルで鑑賞したりすることで、水中の生き物を観察。病院の外に出ることができない子どもたちの校外体験を可能にした。イワシの群れやジンベエザメを間近に捉えた映像に子どもたちは「思った以上にきれいに見える」「ドローンを操作するのが楽しい」と夢中になった。
丹羽教授の専門は特別支援教育(病気や障害のある子どもの教育)だ。ICT教育の研究に取り組むようになったきっかけについて、次のように語る。「大学卒業後、教諭として勤務していた際に1人の教え子が亡くなるという経験をしました。その子は重度の障害によりコミュニケーションをとることが難しく、体の不調を周囲に伝えることができなかったのです。こうした問題にICT等を活用して、体調を客観的にも把握することはできないだろうかと考えたのが、今の研究の始まりです」
教育へのICT活用で広がる 子どもたちの可能性
今回のプロジェクトは、「第4回ジャパンSDGsアワード『パートナーシップ賞(特別賞)』」、「IAUD国際デザイン賞2020金賞」、「第14回キッズデザイン賞」といった数々の賞を獲得し、注目を集めている。丹羽教授はこの成果について「私は入院などの理由で行動制限がある子どもにも、しっかりとした教育の機会を用意する必要性を強く感じています。SDGsという世界共通のテーマが生まれたおかげで本プロジェクトが注目されていることには、非常に大きなメリットがあると思います」と語る。
現在は水族館だけでなく海の中を撮影するプロジェクトが進行中で、今後もさらなる挑戦を続ける予定だ。丹羽教授は「ICTを活用することで、教育機会を奪われている子どもたちに自信を持たせてあげたいのです」と熱を持って話す。病気や障害のある子どもだけでなく、すべての子どもの教育の可能性を広げる丹羽教授の研究にますます期待が高まっている。
<Profile>
丹羽 登
関西学院大学教育学部 教授
小学校や特別支援学校での勤務を経て、2006年より文部科学省初等中等教育局特別支援教育課に特別支援教育調査官として勤務。2015年より現職。専門は特別支援教育。
掲載紙
今回のインタビューは、東洋経済新報社と株式会社WAVEが制作した「東洋経済ACADEMIC SDGsに取り組む大学特集 Vol.4」に掲載されています。
東洋経済ACADEMIC SDGsに取り組む大学特集 Vol.4「行動の10年」の新たなステージへ 持続可能な社会実現に向け加速する「連帯・連携」
2015年に国連で掲げられたSDGs(持続可能な開発目標)。SDGsをめぐる大学の活動は、啓発、実践を経て「行動の10年」を見据えたさらなる加速と深化が求められている。それらを具現化すべく、国際社会や地域社会における「連帯・連携」もパワフルに展開中であり、各界の注目は高まる一方である。本誌は、シリーズ第4弾として、国連、政府、産業等、バラエティ豊かな各大学の連携状況を克明にレポート。SDGsによる大学教育革新の中核に迫る。