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あらゆる動物が幸せに暮らすには?アニマルウェルフェアの視点で社会を見直そう。

2023年の干支はうさぎ。家庭や学校で飼育動物として親しんだ人も多いと思いますが、国内には野生のうさぎも多数生息しています。では、私たち人間の行動が野生のうさぎの生息環境に大きな影響を与えていることをご存じでしょうか?

いま、地球上に生きるすべての動物の幸せを守る「アニマルウェルフェア」という考え方が広がっています。野生動物や飼育動物はもちろん、家畜にも配慮することが世界で求められています。同じ地球に暮らす仲間である動物のため、私たちに何ができるか考えてみましょう。

野生動物と人間の持続可能な関係性

「うさぎの島」と呼ばれる島をご存じですか。広島県竹原市沖に位置する周囲約4.3kmの小さな離島・大久野島には、多くの野生のうさぎが暮らしています。実はこの島、第二次世界大戦中は毒ガス工場が稼働しており、地図に記載されていませんでした。戦後、毒ガスで荒れ果てた土地に野生のうさぎが繁殖し、現在はたくさんのうさぎに会える島として人気の観光地になっています。

筆者が2018年に訪れた時は、フェリー乗り場に行列ができるほど大勢の観光客が集まっていました。島のあちらこちらにうさぎがいて、餌やりなどができる光景はまさにうさぎの楽園。日陰で寝ている子から餌をもりもり食べている子まで、かわいいうさぎの姿にいやされます。

しかし、コロナ禍のため島を訪れる観光客が減少。餌をもらえなくなり、ピーク時に900羽ほどいたうさぎは、いまや400羽ほどに減少しているといいます。新しい餌場を見つけて山間部に生息域を移した可能性もありますが、栄養状態の悪化により生まれる子うさぎの数自体が減少していることも考えられます。どちらにせよ、人間の動向が野生動物の生態に大きな影響を与えてしまっているのです。 観光目的での野生動物の餌付け自体は悪いことではなく、奈良公園のシカや地獄谷野猿公苑のニホンザルのように、日本各地で行われています。つまり、適切な餌やりを意識することで、うさぎと人間の持続可能な関係性を築けると考えます。過剰に餌を与えない、食べ残した餌を放置しないなど、観光客一人ひとりが小さなことから実践できれば、うさぎは人間からの餌に依存せず人間の動向に左右されない生活を確立できるでしょう。うさぎは人間から適度に餌を得られ、人間はうさぎを愛でられる、双方にとってメリットのある関係性が「うさぎの島」で実現できれば良いですね。

フェリー乗り場で販売されているペレットのほか、野菜を持ち込んで餌やりもできる。

あらゆる動物の幸せ:アニマルウェルフェアを考える

野生動物、ペット、家畜などの分類に関わらず、全ての動物がより良い環境で暮らせるように配慮することが現代社会では求められています。アニマルウェルフェア(動物福祉)とは、「動物の生活とその死に関わる環境と関連する動物の身体的・心的状態」のこと(国際獣疫事務局)。私たち人間は動物が精神的・身体的に快い環境で幸福に生き、死ぬために最大限努めなければなりませんが、特に日本はアニマルウェルフェアにおいて後進国と言われており、早急に取り組む必要のある課題です。

アニマルウェルフェアは、野生動物/ペット/使役動物/実験動物/家畜など全ての動物たちを対象とします。つまり、農作物を荒らすイノシシから、サーカスのライオン、医薬品実験のマウスまで、さまざまな動物の幸せに配慮する必要があるということです。アニマルウェルフェアに対する意識の高いフランスでは、2021年にイルカショーの禁止やサーカスでの野生動物の使用禁止、ペットショップでの犬猫店頭販売禁止などを含む法案が可決されました。動物の保護はSDGsのゴール15「陸の豊かさを守ろう」の実現に貢献することから、いずれこのような法案が世界のスタンダードになる日が来るかもしれません。また、近年エシカル消費の観点から、ファッション業界では動物の毛皮の代わりに人工素材を使用する動きが進んでいます。動物に不必要な苦痛を与えることなく、動物と人間が共生できるような取り組みを応援したいですね。

家畜にもアニマルウェルフェアを

生産効率を上げるため、家畜のアニマルウェルフェアはペットなどと比べて軽んじられてきました。しかし、快適な環境でストレスを減らして家畜を飼育することは、結果として生産性の向上や安全な畜産物の生産にもつながるため、SDGsのゴール2「飢餓をゼロに」やゴール12「つくる責任 つかう責任」などの実現に寄与します。

家畜の飼育環境を改善するため、1960年代のイギリスでは「5つの自由」が定められました。

①飢えと渇きからの自由

②不快からの自由

③痛み・傷害・病気からの自由

④恐怖や抑圧からの自由

⑤正常な行動を表現する自由

公益財団法人 日本動物福祉協会

この「5つの自由」は国際的な動物福祉の基礎として現代に受け継がれ、全ての動物にまで対象が拡大されています。イギリスだけでなく、ヨーロッパは世界で先駆けてアニマルウェルフェアに取り組んできました。1997年のアムステルダム条約の議定書には「家畜は単なる農畜物ではなく、感受性のある生命存在である」という規定が宣言され、のちにEU憲法と呼ばれるリスボン条約の本文にも明文化されました。近年では、家畜のゲージ使用を段階的になくしていく「ケージフリー」がEUで進められており、家畜が自由な環境でのびのびと暮らせる環境が次第に整いつつあります。

日本では、アニマルウェルフェア畜産協会によって2016年に「アニマルウェルフェア認証制度」が開始されました。家畜の飼育方法や環境に関する認証基準を満たした農場とその農場で生産された畜産物を主原料としてつくられた食品に対して、認証マークが与えられます。これまで家畜の飼育環境について考えたことがなかったという人も多いかもしれませんが、これからはアニマルウェルフェアの観点から肉や卵を選ぶように視点を変えてみませんか。消費者として、動物が心地よい環境で暮らせているかどうかを意識して商品を選択し、あらゆる動物の幸せの実現に貢献しましょう。

ケージフリーを進めることで、鶏は翼を広げるなどの正常な行動ができるようになる。

<参考>
うさぎの島への玄関口|忠海港
アニマルウェルフェアについて:農林水産省
動物福祉について|公益社団法人日本動物福祉協会
PEACE 命の搾取ではなく尊厳を
一般社団法人 アニマルウェルフェア畜産協会