食糧問題や環境問題を解決する新たな手段として注目が高まっている「昆虫食」。耳にしたことはあるけれど、なぜ昆虫を食べなければいけないの?そもそも昆虫っておいしいの?と思う人が日本では大半ではないでしょうか。広く一般には馴染みの薄い昆虫食ですが、実は知れば知るほど魅力あふれる食材なのです。本記事では、食の新たな選択肢としての昆虫食の魅力に迫ります。
目次
なぜ今ブームなの?昆虫食の意義は食糧危機の解決にあり
世界の人口は年々増え続けており、2022年時点では約80億人に。国連が2022年7月11日「世界人口デー」に発表した『世界人口統計2022年版』によると、世界人口は10年後の2030年には約85億人に達するとされています。
(出典|国連経済社会局プレスリリース)
そこで問題となるのが食糧不足です。人口増加の一途をたどっているのは、主にはアジアやアフリカなどの開発途上国。こういった国々では貧困問題を抱える地域が多く、増える人口に対して十分な食糧を確保することができません。また、気候変動や紛争などで食糧の安定供給が途絶えた際、最も被害を受けるのは貧困国であることが多いのです。
実際に、世界において健康的な食事が行き届いていない人口は2020年時点では約31億人に達しました。
(出典|WFP The State of Food Security and Nutrition in the World (SOFI) Report – 2022)
さらなる人口増加に備えて十分な食糧を確保するためには、従来の食糧生産や食糧流通の枠組みから脱し、新たな糸口を見つけることが必要です。
その糸口として現在注目を集めているのが昆虫食です。国際連合食糧農業機関(FAO)が2013年に発表した『食品及び飼料における昆虫類の役割に注目した報告書』で昆虫食の食糧・飼料としての活用における将来性が唱えられました。
人間の体をつくるのに欠かせないタンパク質の摂取源は、これまでは肉・魚・卵・豆などが中心でした。そこに昆虫という選択肢を加えることで、将来の食糧問題解決への展望が見えるとされたのです。
昆虫食の将来性とは?知られざる豊富なメリットに迫る
食糧問題解決の鍵として、そもそもなぜ昆虫が注目されているのでしょうか。
昆虫が持つ可能性を、環境・栄養価・経済の観点からご紹介します。
環境にやさしい
昆虫の飼育によって環境にかかる負担は、家畜に比べて非常に小さいと言えます。
その根拠としてまず挙げられるのが、飼育交換率の高さです。飼育交換率とは、食料1Kg の収穫を得るために何Kgの飼料が必要かを示す数値。高ければ高いほど、少ない飼料で効率的に食料を収穫できるとされています。昆虫の飼育交換率は50%。一方、牛(可食部)の飼育交換率はたったの0.04%で、1Kg あたり25Kgもの飼料を要します。
昆虫の飼育交換率が高いのは、ほとんど丸ごと食べられるという特徴があるからです。家畜と比べて廃棄する箇所が少ないため、無駄なく食すことができます。さらに、小さな昆虫は運動量が少なくエネルギー消費量もわずかであるため、少ないエサで飼育可能であることも数値の低さにつながります。
その他にも、昆虫飼育が環境にやさしいと言われる理由として飼育の際に大量の水や広大な土地を必要としない点も挙げられます。
環境への影響面で疑問となるのが、昆虫を食べることで生態系を壊してしまうのではという点。
ですが、通常食用として市場に流通する昆虫はそのために飼育されたものなので、既存の生態系に大きく影響することはありません。むしろ、飼育の容易さで森林や水資源を枯渇させないという点で環境保護に優れた食材です。
栄養価が高い
昆虫は環境だけでなく、人体にとってもメリットが豊富な食べ物です。
コオロギ100gには約25gのタンパク質が含まれています。牛肉100gあたりに含まれるたんぱく質は約21gであることと比較しても、たんぱく質豊富な食べ物だといえるでしょう。
他にも、LDLコレステロールを下げる脂肪酸や、食物繊維、ミネラル、ビタミンといった体づくりのために必要な栄養素がバランスよく豊富に含まれています。このことが評価され、FAOの報告書では「スーパーフード」と称されました。
一方で、昆虫を口にする際には注意点があります。
甲殻類アレルギーをお持ちの方は、昆虫を食べるとアレルギー症状が出てしまう恐れがあります。特に生食の場合はアレルギー発祥のリスクが高まるので、甲殻類アレルギーの有無にかかわらず、昆虫を初めて食べる時にはよく加熱したうえで召し上がるようにしてください。
経済成長に貢献する
畜産や農業は、始める際に土地や器具など用意するものが多く、参入のハードルが高い産業です。しかし上述した通り、昆虫の飼育には広大な土地を要せず、飼育ケースや空調設備といった最小限の設備で取り掛かることができます。これは誰もが昆虫食ビジネスに挑戦しやすいことにもつながり、雇用の増加を目指すSDGsの8番目のゴール「働きがいも経済成長も」の達成に貢献します。実際に昆虫食市場は拡大しており、2025年には世界市場が1000億円になると見込まれるほどです。
(出典|株式会社 日本能率協会総合研究所プレスリリース)
また開発途上国でもビジネスを始めやすく、ベンチャー企業が経済開発を担うと期待を寄せられています。
環境への負担を減らしながら高い栄養を摂ることができ、なおかつ産業として取り組みやすい昆虫食。まさに持続可能な社会を築くうえで鍵となることがわかります。
新時代が到来!つい食べてみたくなる昆虫食をご紹介
数多くのメリットがあるにもかかわらず、昆虫食はこれまであまり一般的ではありませんでした。その最大の要因は、見た目の抵抗感でしょう。
もちろん昔から昆虫食の習慣がある国や地域は存在しますが、いなごの佃煮やタガメの炒め物、はちのこなど、そのままの姿のものを食べる場合がほとんどです。
しかし、昆虫食が盛り上がりを見せている現在、昆虫の食べ方に変革が起きています。ベンチャー企業のみならず大手企業も注目し、より食べやすい新商品の開発にしのぎを削っています。
現在昆虫食市場で展開されているのが、抵抗感を解消するために元の昆虫を感じさせないよう工夫した商品です。乾燥させた昆虫をパウダー状にし、クッキーやせんべい、チョコレートなどのお菓子、パンや麺などの主食に加工したさまざまな種類のものが展開されています。
今回は特に初心者でも挑戦しやすい昆虫食4選をご紹介。
実際にSDGsゼミリポート編集メンバーで食べてみた感想もあるので、商品選びの参考にしてみてください。
1.無印良品「コオロギせんべい」「コオロギチョコ」
(挑戦しやすさ★★★★)
環境に配慮した商品を数々展開する良品計画は、他の企業に先駆けて昆虫食に注目しました。徳島大学発ベンチャーの株式会社グリラスと協力して開発に取り組んだ商品が、「コオロギせんべい」と「コオロギチョコ」。成長が早く飼育も容易なコオロギを用いており、コオロギならではの香ばしさを活かした商品を展開しています。販売開始当初から大人気で、一時は入手困難になったほど。
名前にインパクトはありますが、コオロギの風味をよく活かした食べやすい商品です。店舗で見つけた際はぜひ手に取ってみてください。
<ゼミリポメンバーの感想>
●コオロギせんべい
・「エビせんべいのような味で、塩気が効いていて食べやすい」
・「おやつとしてもお酒のおつまみとしても食べられそう」
●コオロギチョコ
・「コオロギの少しの苦みがいいアクセントで、ビターチョコレートのよう」
・「チョコの風味を楽しみながら、タンパク質が高いのがうれしい」
2.株式会社グリラス『C.TRIAクッキー ココア/きなこ』
(挑戦しやすさ★★★★)
徳島大学の基礎研究をもとに、コオロギの活用により地球にやさしいフードサイクルの構築を目指すフードテックベンチャー、株式会社グリラス。食べ物への活用のみならず、化粧品や農業といったさまざまな領域での研究・商品開発を進めています。
そんなグリラスが手掛けるのは『C.TRIA』という昆虫食ブランド。ブランド名のCは、Circulated(循環型)、Cultured(養殖された)、Cricket(コオロギ)の意味が込められています。
カレーやプロテインバーなどの多様な商品を展開している中で、今回ご紹介するのは「C.TRIA クッキー ココア/きなこ」です。甘さ控えめで素朴な味わいで、体にやさしいクッキーです。いつものおやつの時間にぜひ取り入れていただきたい一品です。
<ゼミリポメンバーの感想>
・「コオロギが入っているとは信じられないような、食べやすくておいしいクッキー」
・「コオロギのほのかな苦みで、甘いのが苦手な人でも食べられそう」
・「少し価格が高いのだけが難点…もっと手に入りやすくなってほしい」
3.Pasco『コオロギのクロワッサン』『まゆの便りのまどれーぬ』
(挑戦しやすさ★★★☆)
昆虫食を身近なパン・菓子で経験することにより、SDGsについて考えるきっかけを作りたいという思いで取り組むのは、数々のパン製品を手がける敷島製パン株式会社(Pasco)。
昆虫食品の商品開発を手掛ける高崎経済大学発のベンチャー企業、FUTURENAUTと共同開発した「コオロギカフェ」シリーズや、蚕に着目した「まゆの便り」シリーズなど、豊富なバリエーションで商品を展開しています。
その中でも「コオロギのクロワッサン」と「まゆの便りのまどれーぬ」は、昆虫食市場の中でも新しいパンや焼き菓子。まさに昆虫食の可能性を広げる商品として、食べてみる価値ありの一品です。
<ゼミリポメンバーの感想>
●コオロギのクロワッサン
・「コオロギの香ばしさがクロワッサンの香りを引き立てている」
・「甘すぎない味で、食事にぴったり」
●まゆの便りのまどれーぬ
・「蚕がどこにいるの!?と思うくらい、シンプルでおいしいマドレーヌ」
・「コオロギよりも蚕は風味が柔らかで、食べやすい」
4.株式会社エリー『SILK FOOD』
『SILK FOOD』は蚕に注目した商品で、シルクを生産する過程でうまれる「さなぎ」が再利用されています。蚕はタンパク質を中心に人間の体に必要な栄養素が豊富で、風味の豊かさが特徴です。
株式会社エリーでは、チップスやチョコレートのほか、プロテインスムージーなど豊富なラインナップを展開しており、昆虫食の選択肢を広げています。
どの商品も、言われないと昆虫が入っているとはわからないような食べやすいものばかり。はじめは抵抗感のあったゼミリポメンバーも、一口食べてみると意外とおいしいと感じた人もたくさんいました。
しかし中には、コオロギ独特の香りや、昆虫が入っているということに慣れない人も。不安のある方は、食べやすいチョコレート味や香りが比較的少ないまゆを用いた商品から始めてみるのがおすすめです。
あなたの日々の小さな選択で、環境・社会をよりよくしよう
かつての印象とは一味も二味も違っている、現代の昆虫食。
「飢餓人口を減らすため」「環境を守るため」など注目を集める理由はさまざまですが、何よりもまずは「おいしいから」という理由で選んでみてください。
一人ひとりが積極的に昆虫食を選ぶことで、商品開発が加速し、ビジネスモデルとして確立します。環境や社会にやさしい昆虫食ビジネスの成長が、結果として持続可能な社会づくりにつながるのです。
遠い国で飢餓に苦しむ人を想像することは非常に大切ですが、常に彼らを思いながら生活することは難しいでしょう。しかし日々の生活の中で、環境・社会に配慮した商品を選ぶことは、少しの意識の変化で可能です。毎日のおやつのバリエーションや、健康維持の一つの選択肢として、昆虫食を手に取ってみてはいかがでしょうか。
<参考>