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【龍谷大学】“与えられる存在”から、“与え、分かち合う存在”へ。 靴も人も、何度でも輝ける社会を目指して。

知的障がいや精神障がいのある若者の就労を支援することを目的とした、京都市中京区にある靴磨き・靴修理の専門店「革靴をはいた猫」。

代表を務める魚見航大さんは龍谷大学出身。「障がいの有無を超えて、あらゆる若者が可能性を発揮できる社会にしたい。靴はそのキッカケを作ることができる。」と語ります。

代表の魚見航太さん

龍谷大学在学中に、障がいのあるスタッフが働く学内カフェ「樹林」と接点を持ったことをきっかけに、彼らの自立を促す場をつくりたいとの想いから、靴磨きに注目。在学中に「革靴をはいた猫」を仲間と共に設立しました。

彼はどのような思いを経て、この事業に取り組んでいるのでしょうか。今回は革靴をはいた猫の創業ストーリーを紹介します。

起業のきっかけは、自立したいという障がい者の思い

魚見さんは龍谷大学2回生の時、深草キャンパスにある障がい者が働く「カフェ樹林」と出会いました。

当時、働いていた障がいを持つスタッフは、目の前の作業を淡々と繰り返すばかりでしたが、一緒に時間を過ごす中で、次第に「僕も自立したい」という思いを語ってくれました。

ノーマライゼーションの実践を図り、障がい者スタッフと学生がともに働く「カフェ樹林」。

ともに働き、ともに語るうちに、そうした気運はみんなの中でどんどん高まります。

やがて、カフェ樹林を拠点に「障がい」という概念を超えて、若者がソーシャルな活動を通して学び成長するコミュニティが生まれたのです。学生も障がい者もひきこもりも関係なく、若者も大人もごちゃ混ぜになって汗を流す活動が、次々と進められました。「靴磨き」は、そうしたプロジェクトの1つでした。

靴磨き専門店で修行をした学生が、学んだ技術を持ち帰ってみんなで技を磨きました。カフェの空きスペースを使って、毎日毎日靴を磨きました。

人によっては時計が読めないこともあり、文字通り右も左も分からない状態からのスタートでしたが、仲間と共に一歩ずつ乗り越えていきました。そして大学を卒業する前日、粘り強く挑戦する仲間に背中を押された魚見さんは靴磨きプロジェクトを「革靴をはいた猫」として株式会社化しました。2013年の活動発足以来4年の時を経て、みんなの思いをのせた事業が門出を迎えたのです。

カフェ樹林

靴を磨きながら自分の心を磨いていく

カフェで出会った障がい者手帳を持つ2人は、今では職人として会社を支えています。企業やホテルへの「出張靴磨きサービス」からスタートして、お客様からたくさん喜びの声をもらいました。

ある時、最初は時計も読めなかったメンバーが「自分のお店を持ちたい!」という夢を語り出しました。彼のまっすぐな想いに多くの人が共感と応援を寄せて、京都の御池通り沿いに「1号店」をオープンさせました。靴磨きだけでなく、靴修理も全国屈指の職人に学んだことで、今では「靴の相談窓口」としてお客様から愛されています。

“一度磨いた靴は一生面倒をみる”を合言葉にして、日々お客様と靴に向き合ってきました。お客様や応援してくれる人に「勇気と希望」を与えていく彼らは、靴を磨きながら自分の心を磨いてきたのだと気づかされたといいます。

仕事を通して輝く彼らの姿を見て、「自分も職人になりたい」と全国から人が集まるようになりました。

中には、10年間の引きこもりを二度経験しながらも一緒に働きたいと立ち上がったメンバーもいました。今では最初に立ち上がった2人が、新しいメンバーに技術を教えるまでに。魚見さんは「この挑戦の連鎖をつくっていきたい」と意気込みます。

はじめカフェで障がい者手帳をもつ方に出会った時、魚見さんは「支援をしてあげないと」という思いだったといいます。しかし、本当に彼らや自分自身に必要だったのは、「共通の目的を持ってお互いに高め合う仲間との関係性」だったと学びました。

新たなメンバーと出会う度に「頑張りましょう!」と声をかける。でも、口ではそう言いながらも、心のどこかで「この人はほんとに人の役に立てるかな?」と諦めが湧いてくることもある。確かにそういう自分は存在する。そうした諦めは、見ないようにしているだけで、いつでも、誰の中にでもあるのではないだろうか。

“障害とは可能性を見限ること”いつしか仲間内での合言葉になっていきました。

まだまだ潜在的な力が眠っている障がい者、ひきこもりが多くいます。

経営の神様である松下幸之助さんは「人間は磨けば光るダイヤモンドの原石である」と格言を残しました。粘り強く向き合って「目の前のこの人をどう活かせるか」と本気で考える仲間たちと、この思いをさらに磨き、社会全体に広げていくことを目指しています。

「手放す貢献プロジェクト」始動!! 履かない靴を再生させて、次の持ち主へ届ける

ひとりの職人が育つためには多くの靴が必要です。でも、修行中の身でお客様の靴は任せられません。そんな課題を抱えていた時、お客様から「この靴もう履かんから好きに使って」と寄付を受けました。「皆さんの自宅には履かなくなった靴がたくさんあるのではないか。その靴を職人の育成のために活用できないか。」そんな閃きが生まれました。

「手放す貢献プロジェクト」という名前で、靴の寄付回収を始めたところ、既に1300足を超える靴たちが集まっています。

練習用に集めた靴たちは、しっかり磨き、修理すればまだまだ履くことができるものが多いことにも気がつき、再生した靴の販売にも乗り出しました。

「手放す貢献プロジェクト」には、大丸京都店や京都信用金庫、龍谷大学など地域の様々な方が協力しています。

魚見さんは、「靴と人が一緒に蘇る手放す貢献を地域で盛り上げて、1人でも多くの若者を活かしたい。一緒にプロジェクトを盛り上げてくれる学生も募集中です。」と未来を語ります。

可能性を引き出し、「誰もが助け合える社会」を実現する

そんな同社のFacebookページには、想いを表現する以下のようなミッションステートメントが書かれています。

童話『長靴をはいた猫」では、「何もできないと思われていた一匹の猫が、長靴を貰い果敢にチャレンジしていく物語です。

世の中には活躍できずに埋もれている可能性がたくさん、たくさん、眠っています。

私たちの使命は、それぞれが持つ強みを引き出し、また引き出されながら掛け合わせていくことで、「誰もが助け合える社会」を実現することです。

彼らはこれからも、誠実に仕事と向き合い、お客様、そして社会を足元から輝かせていってくれるでしょう。

記事提供

この記事は、龍谷大学が運営する「ReTACTION」からご提供いただいております。詳細は下記をご覧ください。

ReTACTIONの「TACTION」は「触覚」を意味します。
SDGsを推進するためには、これまでの社会のありようを、疑うことも必要です。
いま何が起こっていて、自分には何が出来るだろうか?
今一度、感覚を研ぎ澄まし、世界に触れてみれば、持続可能な社会につながるヒントを得ることが出来るかも知れません。

また、龍谷大学が掲げる行動哲学「自省利他」は、自らを省みて他を利するという意味です。
自己中心的な考え方をあらため、他者の幸せや社会の利益を考え行動することが、社会を再構築するカギになります。
ReTACTIONは「ReTA(利他)」の「ACTION(行動)」という意味も込めています。
意識改革と実践的な活動の両輪で、龍谷大学はSDGsを推進していきます。