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『グッド・アンセスター』著者が語る未来世代との連携”世代間連携を実現し、長期思考に基づいた社会へ”

持続可能な社会を後世へ引き継ぐために、未来世代をステークホルダーに含めて物事を決定する動きが生まれている。それでは、いかにして未来世代と連携するか。『グッド・アンセスター わたしたちは「よき祖先」になれるか』の著者であるローマン・クルツナリック氏に話を伺った。

哲学者 ローマン・クルツナリック
作家・哲学者・文化思想家。オックスフォード大学で学士、ロンドン大学で修士、エセックス大学で政治社会学の博士号を取得。グアテマラで人権活動に携わった。「スクール・オブ・ライフ」の共同創設者。国際NGOオックスファムのアドバイザー。

現代社会に欠けている長期思考を実装する。「よき祖先」という問い

短期思考が根強く浸透してしまっている現代社会。政治家は次の選挙の後を、企業は四半期報告書の先を見通すことができていません。このような状況を見ると、未来をいわば「植民地化」 していると感じます。特に先進国は、かつての植民地に対する振る舞いのように、生態系への悪影響やテクノロジーのリスクを未来になすりつけてはいないでしょうか。そこで、私は長期思考の重要性を公共の場で話し合うべきだと考え、「よき祖先となるにはどうすればいいか」という問いを定め、『グッド・アンセスター』を執筆しました。 私たちにとって祖先は敬うべき存在です。それと同じように、現代人も未来世代から敬われる生き方をすべきだ」という観点に立てば、世代間のつながりを重んじる文化圏でおのずと理解されると考えたのです。

未来学のアプローチを取り入れた教育の最前線

社会変革を起こすためには未来思考を教育に取り入れ、人々の物の見方を変える必要があるでしょう。多くの国で盛んに行われている環境教育には、未来思考的な手法がすでに取り入れられています。例えば、生徒は2050年の世界を教師とともに予測し、未来の学校のあり方を考えるといったもの。短期思考を抜け出し、教育を進化させるには、未来思考に則った方法で既存の学問を教えてみたり、「未来学」という分野を紹介したりすることが有効なのです。今、未来思考・長期思考を取り入れた教育を行う大学が増えてきています。 未来学で学位を取得できる大学はごくわずかですが、経済学・経営学・工学・科学なども、その教育手法を採用し始めており、世界がゆっくりと変化しています。未来学が学校・大学の科目になるだけでなく、あらゆる学問分野に未来思考が取り入れられ、「私たちはよき祖先になれるか?」という問いが教育関係者にとって当たり前のものになることを願っています。

「観念」の移行によるパラダイムシフトが世界を変える

長期思考に則ったSDGsという考え方は国や組織が政策を策定・実行するにあたっての共通基盤になるでしょう。しかし、私はSDGsだけでは十分でないと考えます。まず、現在の政治のあり方についてSDGsでは語られていません。短期思考的な政治システムの下では、SDGsを浸透・推進することは困難でしょう。フィンランドの「未来委員会」などのように、政治のあり方について話し合い、より成熟した民主制を採る必要がありますが、SDGsにはこの視点が欠けているといえます。また、SDG8「働きがいも経済成長も」にも疑問があります。経済成長を続けながら、炭素排出量やその生態学的な影響を減らすことは、非現実的でしょう。2020年、コロナ禍のロックダウンによって削減された二酸化炭素排出量は6.4%。産業革命以前に比べて世界の平均気温の上昇をできる限り1.5℃に抑えるというパリ協定を達成するには、2040年までに2倍規模のロックダウンが毎年必要です。第二次世界大戦後から続いてきた経済成長への執着が、SDGsにもあります。「持続可能な成長」や「グリーン成長」という観念さえも時代遅れなものであり、パラダイムシフトが求められていると感じています。「経済や資本主義を前提とした世界観」という観念から、「経済を世界の構成要素の一つとした世界観」という観念へ移行すべきです。地動説や両性の平等が、私たちのものの見方に大きな影響を与えたように、新たな観念が世界を変えると信じています。

『グッド・アンセスター わたしたちは「よき祖先」になれるか』

ローマン・クルツナリック 著/ 松本紹圭 訳/あすなろ書房
短期思考に支配された現代社会に警鐘を鳴らし、長期思考への転換の必要性を主張する。豊富な具体例を通して長期思考の6つの方法を説き、未来世代にとって私たちが「よき祖先」となる道を示す。

掲載誌

今回のインタビューは、東洋経済新報社と株式会社WAVEが制作した「東洋経済ACADEMIC SDGsに取り組む大学特集 Vol.4」に掲載されています。

東洋経済ACADEMIC SDGsに取り組む大学特集 Vol.4「行動の10年」の新たなステージへ 持続可能な社会実現に向け加速する「連帯・連携」

2015年に国連で掲げられたSDGs(持続可能な開発目標)。SDGsをめぐる大学の活動は、啓発、実践を経て「行動の10年」を見据えたさらなる加速と深化が求められている。それらを具現化すべく、国際社会や地域社会における「連帯・連携」もパワフルに展開中であり、各界の注目は高まる一方である。本誌は、シリーズ第4弾として、国連、政府、産業等、バラエティ豊かな各大学の連携状況を克明にレポート。SDGsによる大学教育革新の中核に迫る。