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「生まれ」が将来の可能性を決める? 日本の子どもたちを取り巻く2つの格差を考える。

なるほど!

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あらゆる分野で機会均等化の取り組みが行われ、「平等」への意識が高まっているように見える日本社会。ですが実際には、障害や性別、社会的地位、居住地などに起因するさまざまな格差が存在します。出身地域や家庭環境といった、本人が選択できない「生まれ」が影響する教育格差もその一つ。今回は教育格差に加えてなかなか認識されてこなかった「体験格差」に注目し、その現状を紹介。全ての子どもが自由に進路を選択するために、私たちができることを考えます。

生まれ育った家庭や地域が、子どもの最終学歴に大きな影響を及ぼす

憲法および教育基本法には「教育の機会均等」が掲げられていますが、実際は子どもの「生まれ」によって受けられる教育が制限されているのが現状です。「生まれ」にあたる条件の一つが、家庭の社会経済的地位(Socioeconomic status:SES)。これは親の所得や学歴、職業など、経済的、文化的、社会的な要素を統合した概念で、SESが高いほど子どもの教育に有利だといわれています。2015年の社会調査では、父親や母親の学歴、15歳時点の豊かさといったさまざまな指標で、出身家庭のSESが子どもの最終学歴に影響することが確認されました。

子どもの教育機会を左右するもう1つの条件が、生まれ育った地域です。2015年の社会調査を見ると、都市と地方どちらの出身かによって、最終学歴に大きな差が出ています。例えば、4大卒以上の男性の割合は、20~70代の全年代において都市出身者の方が高い状況です。短大卒以上の女性の割合も同様で、20~70代のどの年代でも都市出身者の方が高くなっています。

この背景として考えられるのが、都市と地方におけるロールモデルの違いです。大卒者が多い都市とそうでない地方とでは、子どもが進路の参考にするロールモデルが異なります。地方では親や近所に大卒者がいなかったり、大卒が条件となる仕事に就いていなかったりして、大学受験という選択肢を意識しづらいケースが多々あります。また、人口が少ない地域では、学力に合った普通科の高校が自宅から通学できる範囲にあるとは限りません。地域産業の担い手を育てるために商業高校や工業高校といった専門学科を多く設置している県もあり、地方出身者が取りうる選択肢は限られています。

さらに、SESが高い家庭は都市部に住む傾向があるため、出身家庭のSESと出身地域による教育格差は大きく重なり合っています。相対的に有利な条件で育った子どもがSESの高い家庭をつくり、不利な条件で育った子どもがSESの低い家庭をつくる……。このように、次の世代に負の連鎖が引き継がれていくことは想像に難くありません。社会階層の再生産につながるという側面からしても、教育格差は重大な問題なのです。

世帯年収と地域資源によって差が生まれる、子どもの「体験格差」とは

最近注目を集めているのが、これまで認識されてこなかった子どもの「体験格差」です。ここでいう「体験」とは、学校以外の時間に行う体験活動を指します。定期的な体験活動には、主に習い事やクラブ活動などの「スポーツ・運動」、「文化芸術活動」があります。対して単発で行う体験活動が、キャンプやアウトドアでの「自然体験」、ボランティアや職業体験などの「社会経験」、動物園や美術館、旅行、イベントに出向くなどの「文化的体験」です。

体験活動は、子どもが自らの関心に気付き、個性を伸ばすきっかけになります。そこで培われる自信や好奇心が、学習意欲にもつながることでしょう。また、学校と家庭以外のコミュニティーで人間関係を築くことで、視野が大きく広がります。学力に比べて意識されづらいですが、子どもたちが人生を切り開くために、体験には素晴らしい価値があるのです。

こうした体験活動には、世帯年収が大きく関わっています。小学校1~6年生の子どもがいる家庭を対象に行った調査では、世帯年収300万円未満の家庭の子どもの約3割が「直近1年間で学校外の体験活動を何もしていない」と回答。これは同じく小学生の子どもがいる世帯年収600万円以上の家庭の回答に比べ、約2.6倍の数字です。加えて、「子どもの体験活動への年間支出額」は、世帯年収300万円未満の家庭で38,363円、世帯年収600万円以上の家庭で106,674円と、2.7倍もの差が生じています。
(出典│東洋経済ONLINE「世帯年収による差が2.6倍、学力格差にもつながる『子どもの体験格差』とは」

体験格差をさらに拡大するリスクをはらむのが、「部活動の地域移行」です。少子化による部活動の減少や教員の勤務負担増に対応するため、これから公立の中学校・高校における部活動の指導は、地域団体や関係事業者が担うことになります。2022年にスポーツ庁と文化庁から発表されたガイドラインに従い、2023年度から2025年度までに公立中学校の休日の部活動を段階的に地域移行することが掲げられました。全国各地で取り組みが進む中、浮かび上がってきたのが地域の受け皿の問題。人的資源が乏しい地方では、教員が行っていた部活動の指導や大会運営などを担う人材が確保できない可能性があります。また、財政的に厳しい自治体では、部活動費を保護者が負担しなければならないケースも考えられます。こうした課題を解決できなければ、小学校で生じた体験格差を中学校まで延長する結果になりかねません。

全ての子どもが幅広い選択肢を持つために、私たちにできること

生まれ育った家庭や地域によって、教育と体験の機会に大きな格差が生じている日本。その解決策として注目を集めているのがICT教育です。文部科学省は2019年12月に「GIGAスクール構想」を発表。全国の児童・生徒のために1人1台の教育用コンピュータと高速大容量ネットワークを整備し、一人一人の個性を伸ばすICT環境を実現することを掲げました。当初は地域によって整備状況に差があったものの、2021年の全国調査では「教育用コンピュータ1台あたりの児童生徒数」の平均値1.4人、「普通教室の無線LAN整備率」の平均値78.2%と大幅に改善。ICT環境を通じて、各々の興味や学習ペースに応じた学びが可能になることが期待されています。また、オンラインによる多様な人々との交流が、子どもたちが幅広い進路を考えるきっかけになるかもしれません。
(出典│文部科学省「令和2年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)」

子どもたちのロールモデルとなる大人が生涯学び続けることも重要です。第二次安倍内閣が2017年に打ち出した「人づくり改革」では、学校教育から離れた後も必要に応じて就労と学習を繰り返す「リカレント教育」が推奨されました。現在は文部科学省と厚生労働省、経済産業省が中心となって、さまざまな教育プログラムや給付金制度を用意しています。リカレント教育を始めとする生涯学習を続けることは、長期的な視点で捉えれば教育格差の改善につながります。また、大人が仕事と家庭だけでなく、大学や専門学校といった第3のコミュニティーで過ごすようになれば、子どもに体験活動をさせることの重要性を実感できるのではないでしょうか。

子どもたちが直面している教育・体験の格差には、家庭の経済環境や地域の産業構造など、あらゆる要素が複雑に絡み合っており、一朝一夕に解決することはできません。だからこそ、子どもたちにとって身近な大人が率先し、人生の可能性を追求する姿勢を示すことが重要なのです。

<参考>