©Akira Ito.aifoto
2024年9月に先行してまちびらきを迎えた「グラングリーン大阪」。JR大阪駅の北側、グランフロント大阪や梅田スカイビルなどに囲まれた都会の中心部に、緑豊かな空間が誕生しました。グラングリーン大阪では、SDGsに関連したどのような取り組みが行われているのでしょうか?グラングリーン大阪開発事業者の代表企業である三菱地所株式会社の神林祐一氏にお話を伺いました。
神林 祐一氏
三菱地所株式会社関西支店グラングリーン大阪室室長
一般社団法人うめきたMMO事務局長
2004年三菱地所(株)入社。丸の内における大規模再開発および運営管理、経営企画部門を担当した後、うめきた2期地区開発事業の開発事業者決定にともない関西支店へ異動し、以降グラングリーン大阪の開発に携わる。
気軽に、自由に利用できる公園。豊かな緑で大阪のまちに貢献する
グラングリーン大阪は、大阪駅前の大規模複合再開発の一環として公民連携でプロジェクトが進められてきました。グラングリーン大阪開発事業者は、三菱地所株式会社をはじめとした9社の共同事業としてプロジェクトに参画。「まちでの出会いが、様々な価値を創造し、持続的にみんなと社会全体を良くしていく」ことを目指し、圧倒的なみどりに包まれた公園や多様なアクティビティを楽しめる施設の計画・開発に携わってきました。
グラングリーン大阪室室長としてプロジェクトを主導する神林祐一氏は次のように語ります。「訪れる人が前向きになれたり、誰かの居場所としてほっと安心できたりする場所を作りたいと思い、プロジェクトに参画しました。大阪駅前という立地で、約45000㎡というまとまった広さのある公園、つまり全ての人々に開かれた空間を作ることに大きな意義を感じたのです。それは大阪への貢献になりますし、最終的にはより良い不動産開発やまちづくりにもつながります。近年、労働環境の改善や優秀な社員の採用のために、環境の良い場所にオフィスを構える企業が増えています。長期的なスパンで、緑豊かな公園の存在が不動産価値として反映されることを期待していましたが、実際に公園が出来上がり、既にグラングリーン大阪のオフィスやマンションの契約が順調に推移。マスコミ等にも好意的に取り上げていただき、また公園を訪れた方々からの反響も大きく、予想よりも早く“みどり”の価値が顕在化しています」。
グラングリーン大阪といえば、うめきた公園内サウスパークの「芝生広場」が有名です。緩やかに傾斜した広大な芝生と、空やビルを鏡のように映す水盤があり、フェスなどの大規模イベントが開催できるスペースも備えています。休日は子ども連れのファミリーで大賑わい。アクセスも良く、のびのびと遊べる公園は、親にとっても子どもにとってもうれしい存在です。神林氏は、「ベビーカーが想定の10倍来ている」と驚きの声を漏らします。
「まちびらき以降、多くの人々に公園をご利用いただいています。SNSでは、都市計画や都市景観的な観点からのお褒めの言葉はもちろん、『外で遊ぶことで子どもが元気になった』『久しぶりにフェスに行けてうれしかった』『何度でも行きたくなる』といったお声もいただきました。思いついた時にふらっと立ち寄っても良し、買い物の途中で子どもがぐずってしまった時の気分転換に使っても良し。肩ひじを張らずにいろいろな用途で使っていただきたいですね」。
昨年、グラングリーン大阪開発事業者が協働し、「一般社団法人うめきたMMO(“MIDORI” Management Organization)」を設置。MMOを通じて今後50年間、グラングリーン大阪のパークマネジメントとエリアマネジメントを一体的に行います。公園運営においてめずらしい取り組みとして挙げられるのが、レンタルグッズ。カートに入ったレジャーシートや遊び道具などが無料でレンタルできるようになっており、手ぶらでも遊びに行きやすいのがうれしいポイントです。また、女性や子どもが訪れやすい治安の良さを維持するために、常にごみのないきれいな状態を保ち、管理者が常駐して声掛けを行っています。ジェンダー平等の観点から、グラングリーン大阪ではオールジェンダートイレも設置。犯罪抑止のため、トイレも清潔に保つことを心掛けているそうです。
“みどり”の力はもちろん、最先端技術で総合的に環境保全に寄与
芝生広場の北側に位置する「色彩ガーデン」では、多種多様な植物が見られます。うめきた公園全体では、なんと320種・1500本もの木々が植えられているそうです。これらの植物は大阪近郊の自然をベースに構成されており、淀川や近隣の里山から飛来する鳥類や昆虫が過ごしやすい環境をつくりだしています。生物多様性に配慮した公園づくりがなされているのです。また、美しい景観も魅力の一つ。盛り土によって生まれた高低差やうねりが表情豊かな立体感をつくりだしていたり、100本もの桜がグラデーションになるよう配置されていたり。有名なランドスケープデザイナーによって計算された美しい自然に、思わず見とれてしまいます。公園内の木々にはネームプレートが設置されており、子どもたちが植物に興味を持つきっかけにもなりそうです。
たくさんの木々は、景観だけでなく自然環境保護の役割も果たします。三菱地所と協働して開発に携わった日建設計株式会社は、都市空間に対して緑が及ぼす価値や効果を可視化するために「みどりのものさし」という基準を策定しました。神林氏はこの基準について次のように述べます。「緑が持つ自浄作用には強く期待しています。気候変動に対して具体的な対策を講じるために、『みどりのものさし』で策定した目標値の達成に向けて、しっかりと緑を管理して行きたいと考えています。これまで漠然としていた緑の価値を定量的に見せてくれる『みどりのものさし』は、他のプロジェクトにも積極的に応用されるでしょう」。その他にも、グラングリーン大阪では最先端の環境配慮技術が数多く導入されています。井戸水を利用した冷暖房システムや、生ごみから電気をつくるバイオガス発電など、エネルギー面や生産・消費の観点からもSDGsに貢献。「緑に限らず多角的な視点で環境保護に寄与する、次世代型公園プロジェクトとして周知を広めていきます。グラングリーン大阪をお手本として、地球に優しいまちづくりを拡大していきたいです」と神林氏は意気込みます。
公園だからこそ生み出せるイノベーションに挑戦
グラングリーン大阪の計画コンセプトは、「“Osaka MIDORI LIFE”の創造」~「みどり」と「イノベーション」の融合~。大阪駅前という立地の良さや公共施設というメリットを活かし、産官学連携のフィールドとして活用されることが期待されています。「公園は多くの人々が訪れますし、広いスペースでいろいろなアクティビティを実施し、多様なデータを収集できます。また、北館1階から9階には会員制交流スペースやレンタルオフィスなどが設けられ、多様な人々が集いイノベーションを創出する土壌が備わっているのです。公園を訪れる子どもを対象とした実証実験のほか、大阪の強みである医療分野の研究も大学や企業と連携しながら進めていきたいと考えています」と神林氏は展望を語ります。
「都市開発は何かを壊して新しいものを作ることが多く、地域住民と摩擦が生じることも少なくありません。しかし、今回は梅田貨物駅跡地の空白となっていた土地に0から公共施設を作るという点で、大阪の皆さんに祝福されたプロジェクトだと考えています。幅広くSDGsに寄与するグラングリーン大阪を参考にしたまちづくりが国内外に広がれば、きっと持続可能な世界を実現できるでしょう。グラングリーン大阪は、まだ生まれたばかりの赤ちゃんの状態です。これから50年丁寧に管理を続け、大阪の皆さんに愛される公園に育てていきます。多くの皆さんに、ぜひ積極的に利用していただきたいです」。
2025年3月には、天然温泉やプールなどを備えたウェルネスなライフスタイルに触れられる南館がオープン。2027年春頃にはノースパークが完成予定です。持続可能な社会を目指して進化を続けるグラングリーン大阪から目が離せません。