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現代にも通じる、作品に込められた平和への願いとは。

【SDGs×クラシック】年末の風物詩、ベートーヴェンの「第九」。
現代にも通じる、作品に込められた平和への願いとは。

なるほど!

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気づけば、年明けからあっという間に3週間が過ぎ、1月も後半に差し掛かりました。ついこの間お正月を迎えたばかりだった気がするのに、時の流れの早さに驚いてしまいますね。そんな今日この頃ですが、今回の記事はお正月よりさらにちょっと記憶を戻して、12月末の話題からお届けします。

年末の風物詩、「第九」ってどんな曲?

世間に年末ムードが流れ始めていたあの頃、クリスマスソングと並んで、街中やテレビ番組のBGMで「歓喜の歌」のメロディを耳にした人も多いのではないでしょうか?ピンと来ない人も、一度聴けばこの曲か!とすぐに分かると思います。

ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」――通称「第九」は、1824年に初演されて以来200年間、世界中で親しまれてきました。日本では年末に演奏されることの多い一曲で、特に「歓喜の歌」の合唱が始まる第4楽章は、日本人にとって最もポピュラーなクラシック曲のひとつです。

何を隠そう、筆者も幼い頃からのクラシック音楽好きの一人。社会人となった今もオーケストラ団体に所属して音楽を続ける身として、「第九」はいつか演奏してみたいと思う憧れの曲でした。そして一昨年度、ついにこの名曲を演奏する機会に恵まれました。
参加したのは、東京・武蔵野市で行われたコンサート「武蔵野市友好と平和の第九2022」。武蔵野市とルーマニア・ブラショフ市との友好三十周年を記念して開催され、その収益金はすべて、ルーマニアに隣接するウクライナからの避難民支援に充てられました。

演奏会本番前の練習風景。
第九の演奏時間は1時間以上にも及びます。
体力面、技術面ともになかなかハードな1曲でしたが、曲の終盤、合唱団が一斉に「歓喜の歌」を歌い出す瞬間はやはり鳥肌もの!
練習のたびにその瞬間を味わえて、とても贅沢な経験でした。

筆者が参加したコンサートも「平和」をテーマに掲げていたように、第九は平和を象徴する音楽として、何かと年末に演奏されることの多い一曲です。
調べてみると、その世界的な風潮の始まりは、1918年の第一次世界大戦終戦後、平和を願う声が高まっていたドイツで演奏されたことだったそうです。日本では第二次世界大戦後の1947年に日本交響楽団(現・NHK交響楽団)が12月に演奏したのを機に、年末に第九を演奏する慣習が広まったと言われています。
さらに、1989年のベルリンの壁崩壊直後には東西ドイツ統一を祝して、2011年の東日本大震災後には犠牲者を悼む意を込めてなど、第九は歴史的な節目や平和への願いが込められる場面でたびたび演奏されてきました。

時代を越えて現代に響くベートーヴェンのメッセージ

そもそもベートーヴェンがこの作品を完成させた時代は、ナポレオンによるフランス革命の終焉後にありました。戦争が終わり、一見「平和」な社会が訪れた一方で、市民の「自由」は政治的に厳しく抑圧されていた時代です。そんな中、ベートーヴェンは作家シラーの詩「歓喜に寄せて」を交響曲の中に声楽パートとして組み込み、人々の自由を讃える音楽としてこの作品を世に送り出しました。
詩の一節には、「ともに喜びに満ちた歌を歌おう」「抱き合おう、何百万もの人々よ!」といったフレーズが登場します。「すべての人がが兄弟であり平等である」というメッセージを歌い上げたこの曲は、現代のSDGsの理念である「誰一人取り残さない社会をつくる」や「平和と公正をすべての人に」というゴールとも通ずるものがあるように思えます。

また、ベートーヴェンがこの曲を完成させたのは晩年、54歳の時。この時点で彼はほぼ完全に聴力を失っており、さまざまな難病にも苦しみながら生きる喜びさえ奪われつつある状況にありました。そんな自身の苦境を、「苦悩を突き抜け歓喜に至る」という音楽の様式に昇華させ、彼の人生を象徴するかのような一曲を作り上げたのです。

こうした彼の壮絶な人生や、真の平和と自由を求める時代背景の中で生まれた曲だからこそ、第九は時代や国境を越えて世界中で演奏され続ける普遍的な作品となり、多くの人々の心に強いインパクトを残し続けているのかもしれません。

「武蔵野市友好と平和の第九2022」演奏会当日の様子。
「歓喜の歌」が終わると会場中から大きな拍手が巻き起こり、大盛況の中終幕しました。

聴くことで支えるSDGs

筆者が参加したコンサートが、その収益金をすべてウクライナからの避難民支援に充てていたように、私たちが観客として聴きに行くことで間接的にSDGsに貢献できるようなコンサートは他にも多数開催されています。
たとえば、地元の子どもたちの教育支援や地域福祉を目的としたチャリティーコンサートや、環境保護をテーマに掲げたコンサートなども。こうした取り組みを行う楽団のコンサートを鑑賞することで、楽団自体の支援にもつながり、ひいては地域文化を守り豊かにする一助となるかもしれません。まずは、身近なホールでどんなコンサートが行われているか、一度調べてみてはいかがでしょうか。

クラシック音楽、SDGs……と考えるととっつきにくい印象を抱いてしまうかもしれませんが、深く考えすぎず、最初は知っている曲や親しみやすいテーマを扱う演奏会に足を運んでみるのもおすすめです。(過去には、「ドラゴンクエスト」の音楽をメインで演奏したプロのオーケストラ楽団も。筆者は今度、「スター・ウォーズ」の楽曲を演奏予定です!)

ちなみに。「武蔵野市友好と平和の第九」コンサートは2022年以降も継続して開催されています。次回公演は2025年11月2日(日)に武蔵野市民文化会館で予定されており、収益金は例年どおりウクライナ支援に全額寄付されるそうです。まだ少し先ですが、興味のある方は今のうちからぜひ、チェックしてみてください。

詳細はこちらから→むさしの第九の会『武蔵野市友好と平和の第九2024』

<参考>
年末になると、なぜ「第九」?|第九コンサート特集
<社説>終戦の日を前に 焦土に響く「歓喜の歌」 – 東京新聞
第九、きょう武蔵野市で ウクライナ避難民支援 – 東京新聞
時代の転換期に演奏された「第九」。戦争、平和、革命