街がフレッシュな空気で満ちる新年度。しかし、むしろ毎年この時期になると憂鬱な気分になってしまう人がいます。そう、花粉症患者の人々です。筆者自身はまだ花粉症になってはいませんが、父が重度の花粉症持ち。目が痒くてしょっちゅう目をこすり、そのせいで目の周りの皮膚まで炎症を起こしたり、薬を飲むと強い眠気に襲われたりと、本当に辛そうです。外出も必要最低限にとどめざるを得ず、生活が大きく制限されてしまっています。
そこで今回は、花粉症の原因の一つであるスギに着目し、森林の恵みを守って活かしつつ、人が健康に過ごせる未来について考えてみました。
なぜ、日本にはスギが多いのか?
あらゆる植物の花粉が花粉症の原因になりますが、中でも日本で最も多いのがスギ花粉症です。日本には広大なスギ人工林があるためで、その総面積は約441万ha。これは全国の森林面積の約18%、人工林面積の約44%にも及びます(令和4年3月31日時点)。
これほど広く植栽されてきたのは、スギが建材や家具材として有用な樹種だからです。スギは日本固有の樹種で、軽くて柔らかく、まっすぐに育つため加工が容易。調湿効果があり、腐朽しにくい特長からも、古くから日本の建築で重宝されてきました。近代では、特に戦後の山地復旧や高度経済成長期における木材需要の増大に応える目的で、日本中でスギの造林が進められました。
花粉の少ない森林づくりには、スギ材の有効利用が鍵
「いくら利便性の高い木材だといっても、こんなに辛い思いをするならいっそスギを全部伐採してほしい!」花粉症の辛さから、スギに憎しみに近い感情が募り、そう思ってしまう人もいるかもしれません。しかし、安易にスギを伐採することはできません。伐採してはげ山を多く生み出すと、水害や山地崩壊などの危険を招いてしまうからです。伐採後に花粉の少ない苗木を植えるなどして、森林を保持しなければなりません。
また、伐採したスギがきちんと有効利用されるよう、スギの需要を促進することも鍵となります。実は、日本では国産材の利用があまり進んでおらず、令和5年の木材自給率は43%。半数以上を安価な輸入木材に頼っています。特にスギは、戦後に植えられた多くの苗木が育ち、伐採に適した時期を迎えているものの、需要が少なく伐採できないという問題を抱えています。この状況を受けて、林野庁は、補助金などによる国産材の利用促進政策を行っています。
スギ材は、ホームセンターの木材売り場でもよく見かけます。実は筆者の自宅にあるデスクも、スギ材を使ってDIYしたもの。サイズや形の展開が豊富で目的に合ったものを選びやすく、価格も手頃だったのでスギ材を選びましたが、完成したデスクは、木目の風合いにあたたかさが感じられるお気に入りのアイテムになりました。住宅業界などで国産材の利用が広がることはもちろん重要ですが、私たち個人がもっと日本の木に親しみ、木材や木製品を選ぶことも有意義な行動です。スギ材の需要が高まれば、人工林の「伐って、使って、植えて、育てる」というサイクルが加速。花粉の少ない品種への植え替えが進み、花粉症の問題が少しでも早く和らぐことにもつながっていくでしょう。

花粉症の辛さを乗り越えて、春を楽しむために
陸の豊かさを守りながら、花粉症問題を解決することには長い期間を要します。そのため、まずは花粉症でない人が花粉症患者の辛さを理解し、サポートすることが重要です。屋外から建物内に入るときに衣服に付いた花粉をはらう物理的な花粉対策の協力から、気分の沈みに寄り添う心理的なサポート。会社や学校では、花粉症による体調不良や薬の副作用による眠気を理解し、休日取得やこまめな休憩を認めることも必要かもしれません。症状の現れ方や程度は人によって異なるため、当人の話をよく聞いて、適切なサポートが必要でしょう。
このところ毎年のように聞く「今年の花粉飛散量は過去最多!」といった報せ。日本人と花粉症の闘いはまだまだ続きそうだからこそ、他人事とドライに切り捨てず、知恵を出し合い、すべての人が春という季節を楽しめるようになりたいものです。