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答えのない問いが、思考を深くする。「哲学対話」で自分と向き合う時間を作ろう。

なるほど!

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2017年の学習指導要領改訂から、「主体的、対話的で深い学び」が重要であるという記載が追加されました。その実践法として哲学対話が注目を集めています。哲学対話とは、参加者同士が一つのテーマについて自由に語り合い、一緒に考えを深めていく対話の方法です。
筆者は大学時代の講義で初めて哲学対話を体験しました。普段であれば議論のゴールには結論がありますが、哲学対話には結論がありません。ただひたすら聞き、考え、言葉にする。日常にあるようでなかったそんな時間が、新たな気づきを得るきっかけになるかもしれません。

誰でも簡単にはじめられる。誰とでもできる。

「哲学」という単語を聞くと小難しく感じるかもしれませんが、哲学に関する知識は一切必要ないのが哲学対話。日常の小さなモヤモヤや当たり前を問い直すなど、このテーマを人と共有したい!と思うことについて対話を進めます。

筆者が実際に体験したテーマ例。

哲学対話において重要なのは、「聞く」こと。誰かが発言している間はその意見を否定も肯定もせず、ただ受け止めることで対話を深めていきます。話す内容は自分が考えたことでなければいけないので、わからない言葉や内容に出くわしても、調べるのはNGです。言葉に詰まっても、うまく話せるまでたっぷり時間を使って大丈夫。話したくなければ聞いているだけというのもありです。

筆者が過去に対話したことのあるテーマの中で面白かったのは、「芸術って何だろう」です。対話が始まってすぐに議題に上がったのは、どこからが「芸術」なのかということでした。美術館に飾られるような美術品だけでなく、ノートの落書きだって見る人によっては芸術になるのでは?人々が魅力的に思うことが芸術の条件であれば、レプリカも芸術品といえるのか?芸術に金銭的価値をつけてもいいの?など…。参加している人の数だけ考え方があってどんどん新たな問いが生まれていくので、話題は尽きません。

調べればすぐに正解がわかる時代にこそ、ゴールのない問いと向き合う。

AIやインターネットの発達によって、私たちが自分の頭でじっくり考える機会は、以前より減ってきているように思います。わからないことは調べればすぐに正解に辿り着ける、という「当たり前」が、答えのない問いと向き合ったり、それについて他者と対話したりする機会を奪っているのかもしれません。

また、他者の意見や考えが際限なく流れ込んでくる環境においては、どこからが自分の考えでどこからが他者の意見なのか、その境界が曖昧になりがちです。そのせいで、自分の感情やストレスに気づきにくくなることも。哲学対話を通して自分の心にじっくり向き合う営みが、自分自身の感情や言葉と出会うきっかけとなるでしょう。

対話を通して、多様な考えに触れる。理解する。

何よりも、哲学対話の価値は他人と自分の違いを認識することにあると思います。全員が共通の答えを持っている必要はなく、100人あれば100通りの答えがあるのは当然なのです。他人と違うことを恐れる必要もありません。また、多様性やインクルージョンが叫ばれる社会で、対話の中で自然とそれを実感できることも魅力の一つでしょう。個人単位でできるSDGs達成への第一歩にもつながると考えられます。
哲学対話は、参加する人がいればどこでもできます。初対面の人同士が集まって哲学対話をする哲学カフェも全国各地で開催されていますし、見知った人同士でやってみるのも面白いかもしれません。
今こそ立ち止まって、考えることに時間を使ってみませんか。

<参考>
哲学対話をしよう ~手を止めて、余白をつくって問い直す~
『哲学対話』先生と生徒が共に考えるアクティブラーニングな授業
学習指導要領「生きる力」:文部科学省