SDGsは17のゴールと169のターゲットで構成されています。169ターゲットコラムでは、ターゲットの一つひとつに焦点を当て、考察を進めていきます。
11.4 世界の文化遺産及び自然遺産の保護・保全の努力を強化する。
Strengthen efforts to protect and safeguard the world’s
cultural and natural heritage
「住み続けられるまちづくりを」。この言葉を聞いたとき、まず頭に浮かぶのはインフラや防災ではないでしょうか。ターゲットごとに見ていくと「SDG11.4」の内容には「文化遺産」「自然遺産」というキーワードが含まれます。住み続けられるまちづくりに、日本の文化・自然遺産はどのように関わってくるのか。本記事では、守り伝えられてきた文化遺産と、観光のあり方や持続可能性に着目して考えます。
あなたは日本をどれくらい知っていますか?
「日本ってどんな国なの?どんなところが魅力?」と海外の方から問われたとき、あなたは何と答えますか?歴史ある寺社仏閣が多い、四季がある、和食が美味しい、伝統技術とアニメなどの文化の数々…。さまざまなことが挙げられると思います。では、その中の何かひとつ、自信を持って語ることはできるでしょうか。
元プロサッカー選手の中田英寿氏は、現在、日本文化再発見プロジェクト「にほんもの」を立ち上げ、全国各地の日本文化の魅力を広める活動をしています。サッカーを通じて世界各地を旅した際に日本の文化について尋ねられることが多く、自分が生まれた国についてあまり知らないと実感したことがきっかけだったそうです。
現在は新型コロナウイルスにより、観光分野は甚大な影響を受けていますが、ここ数年は「観光立国 日本」を掲げた政策の効果もあり、外国人観光客の来日は増加傾向にありました。日本政府観光局(JNTO)の調べによると、2019年の訪日外国人旅行者の数は約3,188万人に及びました。
(出典|観光庁「訪日外国人旅行者数・出国日本人数」)
経済的観点でみると、日本国内で旅行に使われるお金の総額は26.7兆円。そのうち訪日外国人が使用する金額は実に16.5%。4.4兆円にものぼります。
(出典|観光庁観光産業課「観光や宿泊業を取り巻く現状及び課題等について」)
海外からの観光客はいまや地方自治体をはじめ、日本経済において欠かせないものとなっています。「東京オリンピック」は新型コロナウイルス感染拡大防止のため2021年に延期されましたが、開催を機に世界中の人々の日本文化への関心はさらに高まることでしょう。
外国人観光客の評価が高い、日本の観光地とは
海外旅行をする際、多くの人にとって「世界遺産」は人気のスポットのひとつ。ユネスコが登録する世界遺産は、過去から引き継ぎ、未来へと伝えていかなければならない人類共通の遺産です。
現在、国内で世界遺産(文化遺産)に登録されているものは以下の通りです。
(出典|文化庁「世界遺産(文化遺産)一覧」)
このなかで、世界最大級の旅行コミュニティサイト「Tripadvisor」の口コミ評価、投稿数などをもとに集計された「旅好きが選ぶ!外国人に人気の日本の観光スポットランキング2020」TOP30にランクインしているものは黄色で塗った7件。
(出典|どこいく?×Tripadvisor「旅好きが選ぶ!外国人に人気の日本の観光スポット 2020」)
立地等による訪れやすさも大きく影響すると考えられますが、世界文化遺産は観光地としてやはり人気が高いと考えられます。日本の観光業を考えるうえでも、欠かせないものかもしれません。
文化を守り伝えてきた人々の「想い」と、持続可能な観光のあり方
SDGsのターゲット11.4「世界の文化遺産及び自然遺産の保護・保全の努力を強化する」。ここで言う文化遺産とは必ずしもユネスコ指定の「世界遺産」を指す訳ではありません。では、SDGsの観点で、日本の文化遺産をどのように保護・保全強化すれば良いのでしょうか。
建設当時の姿をありのままに伝えている文化遺産は決して多くはありません。なぜなら、経年による劣化や天災の影響は避けることができないからです。例えば世界遺産に登録されている広島県・厳島神社では、設立当初のまま現存している社屋はわずか2棟という研究結果も。(建物の建築年代は残された修理報告書などの資料からわかるものもあれば、年代ごとに特徴の異なる細部意匠や、柱の角を取る面取の手法、風食の具合から判別されるものもあります。)
また、2015年に大規模な修繕工事を終えた姫路城では、世界遺産の価値の周知および大規模な改修の啓発とPRのため、修理過程は原則公開され、修理見学ブースも設けられていました。この他にも、多くの社寺では複数回にわたり、改修工事が行われ、その姿を後世まで伝え続けています。
幾多の修理を重ね、大切に守り、現代まで伝えられてきた文化遺産。その過程には、遺産を守り伝えてきた人々の姿があります。修理を通じて、現在まで大切につながれてきたこと自体に価値があるといえるでしょう。
ところが、近年の文化遺産への集客方法には少し首をかしげたくなるものも見られます。ライトアップをはじめ、プロジェクションマッピングやVRの導入、ミュージカルの開催など、さまざまな取り組みが行われています。持続可能なまちづくりを実現するために、新たな技術や流行を取り入れた観光のあり方を模索することは必要でしょう。しかし、これらの取り組み・イベントなどにおいて、遺産を大切に守り伝えてきた人々の「想い」はどの程度汲み取られているのでしょうか。
持続可能な観光のあり方を考えるという点で、ユニークな試みを行っている建物があります。内閣府により2018年度のSDGs未来都市に選定された神奈川県鎌倉市の旧村上邸(市所有)。鎌倉市の景観重要建築物等に指定されています。
(画像出典|旧村上邸-鎌倉みらいラボ-)
「古都としての風格を保ちながら、生きる喜びと新しい魅力を創造するまちを目指す」という理念を掲げ、持続可能な都市経営を目指す鎌倉市。旧村上邸の運営においても、歴史的・文化的観点で貴重な建物や景観を残したいという元所有者である村上梅子さんの想いを大切にしています。荘厳な能舞台や連続する畳の間、複数の茶室などがある旧村上邸の特長を生かし、企業研修や保養、また市民活動ができる場として活用しています。「持続可能」な遺産と観光のあり方を模索する文化財の一例だと言えるでしょう。(出典|旧村上邸-鎌倉みらいラボ-)
「文化遺産」とは将来継承されるべき文化・文化財のこと。市区町村指定文化財など日本には多くの文化遺産が存在しています。これらをどのように生かしていくのか。技術や時代の変化によって、観光のかたちは変化しています。「伝統」も変化することで続いていくことができる、と考えられます。SDGsの理念でもあるインクルーシブ(社会的包摂)の観点を持ち、流行ばかりに捉われることなく、そこに込められた想いをしっかりと汲み取ることが、持続可能な観光のために必要不可欠なのではないでしょうか。