SDGsは17のゴールと169のターゲットで構成されています。169ターゲットコラムでは、ターゲットの一つひとつに焦点を当て、考察を進めていきます。
5.4 公共のサービス、インフラ及び社会保障政策の提供、並びに各国の状況に応じた世帯・家族内における責任分担を通じて、無報酬の育児・介護や家事労働を認識・評価する。
Recognize and value unpaid care and domestic work through the provision of public services, infrastructure and social protection policies and the promotion of shared responsibility within the household and the family as nationally appropriate
今回取り上げるのはターゲット5.4です。ゴールやターゲットの解説に加え、家庭内で実践できる取り組みをご紹介します。
目次
日本の重要な課題:ゴール5「ジェンダー平等を実現しよう」とは?
2020年7月、持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)などが世界のSDGs達成度ランキングを発表、166カ国中で日本は17位という結果でした。昨年の15位や2017年の11位から下降傾向にある日本のSDGs達成度。最大の課題の一つに挙げられているのが、ゴール5『ジェンダー平等を実現しよう』です。具体的には、女性国会議員の数、男女の賃金格差、無償労働を行う時間の男女格差といった項目で他国の後塵を拝しています。
(出典・画像出典:サステナブル・ブランド ジャパン『世界のSDGs達成度ランキング、日本は17位 格差是正の取り組み後退』)
SDGsの達成を目指すうえで、日本がまず目を向けなければならない「ジェンダー平等」。そもそもジェンダー平等について、正しく認識できているでしょうか。よく耳にする「ジェンダー」という言葉ですが、正確に定義を言える人は多くないでしょう。ジェンダー(gender)とは、生物学的な性別(sex)に対して、社会的・文化的につくられる性別のことを指します。世の中の男性と女性の役割の違いによって生まれる性別のことです。例えば、「家庭を守るのが女性の仕事」という考え方には、文化的な性別つまりジェンダーが現れています。
国会議員の数や賃金格差の問題を個人で今すぐ解決するのは難しいでしょう。しかし、ご自身の家庭を振り返ってみることはできるはずです。女性だから、家事や育児、介護をしなければいけない。その負担が夫よりも重くなって当然だ。このような考え方が少しでもあるとすれば、それこそジェンダーの不平等に他なりません。
妻の家事・育児に取り組む時間が大幅に長い日本の現状
今回、注目したのはターゲット5.4の「世帯・家族内における責任分担を通じて、無報酬の育児・介護や家事労働を認識・評価する」という部分です。家事におけるジェンダー平等を目指すためには、家事労働の負担の大きさを正確に把握し、その労働を正当に評価することが大きなステップになります。
その前に、日本の「ジェンダー平等」の現状について、確認しましょう。下のグラフは、平成28年に総務省が行った調査をもとに作成されています。6歳未満の子どもを持つ家庭において、妻と夫がそれぞれ家事・育児に費やす時間を比べています。
(画像出典:内閣府 男女共同参画局『男女共同参画白書 平成30年版』第3章 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス))
日本では、夫が1日に家事・育児などに費やす時間は平均1時間23分、ほかの先進国と比較すると、大幅に少ないと言えます。反対に、妻が費やす時間は他国よりかなり長い7時間34分です。(出典:総務省「社会生活基本調査」(平成28年))
ただ、日本の夫が家事・育児を放棄していると一概には言えません。長時間労働や単身赴任といった働き方が、夫婦間の家事労働時間の差を大きくしている可能性もあります。とはいえ、依然として家事は女性がするものという考え方が根強いのも大きな理由の一つではないでしょうか。それでは、ジェンダー平等を達成するために家庭内でできることは何でしょうか。
第一歩!見落としがちな「名前のない家事」を洗い出そう
「家事労働を認識・評価する」ため今日からできることの一つに、名前のない家事を洗い出す作業があります。名前のない家事とは、「掃除」「洗濯」「料理」といった代表的な家事に含まれにくい、細かな作業のこと。一つひとつの作業時間は短くても、塵も積もれば山となり家事従事者の負担を重くします。夫婦で家事を分担している家庭でも名前のない家事は見落とされがちです。ジェンダーバイアス(男女の役割についての固定観念)などの理由から、気がつけば女性が大半を担っており、家事の時間が男性より大幅に長くなっているのではないでしょうか。まずは名前のない家事をできる限り書き出して、家事負担を明確にしましょう。
以下に、具体例を挙げます。
・シャンプーやリンスの詰め替え
・排水溝や洗面台まわりの片づけ
・食料の残量確認
・献立の検討
・調味料の補充
・洗った食器を元の場所へ返却
・食前、食後での食卓拭き掃除
・洗濯物の取り込み
・洗濯物を畳む作業
・トイレットペーパの補充やティッシュの交換
・カーテンの開閉
・玄関の靴の整理
・靴磨き
・古い新聞や読み終わった雑誌の処分
・照明の取り換え
・町内やマンションの会合への出席
<お子さまがいる場合>
・子どもの起床
・子どもの 洗顔・歯磨
・子どもの服の準備と着替え
・子どものおむつ替えやトイレサポート
・子どもの送迎
・連絡帳の記入や勉強の進捗確認
書き出した後は、主に誰が作業しているか確認してみましょう。そして、名前のない家事を含めた家事分担を一度家族で話し合ってみてはいかがでしょうか。 「こんなことまでやってくれていたんだ」と名前のない家事を担ってくれた人に感謝して、今後は負担が偏らないように配慮しましょう。できることは自分でするといった、積極的に家事に参加する姿勢も大事です。
次世代にジェンダー不平等を残さないために
現代のジェンダー不平等を将来的に解消するには、次世代に引き継がないことも肝心です。子どもがいる家庭では、男女問わず子ども達に積極的に家事をさせるのも一つの手。その子どもが成長して家事に前向きな大人になれば、家事労働におけるジェンダーギャップ(男女の違いにより生じる格差)は縮まるでしょう。 また、ジェンダー不平等が生じている場面は家庭内にとどまりません。女性社員限定でお茶くみやゴミ出しを担当させる企業もまだあると聞きます。家庭での「ジェンダー」について理解を深めたことを一つのきっかけに、職場や公共の場などさまざまな場面におけるジェンダー不平等に焦点を当て、その解決策を考えてみてはいかがでしょうか。少しずつでも確実にSDGsの達成を目指しましょう。
<参考>
・なんとかしなきゃ!プロジェクト – JICA l開発途上国の“ジェンダー・人権”を考える