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ノーベル賞受賞者吉野彰が語る「人類共通の課題解決に向けた変革」

CO₂排出量の削減など地球環境保全に貢献するリチウムイオン電池を発明し、2019年にノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏。産業技術総合研究所ゼロエミッション国際共同研究センター長も務める同氏に、SDGsの意義や課題についてインタビューを実施した。

第4次産業革命によって起こるパラダイムシフト

――初めにSDGsに対する見解をお聞かせください。

SDGsは多岐にわたる17項目の目標を具体的に示していますが、大きく3つの分野に分類できます。そして、それぞれの分野で次の変革が必要となります。まずは問題解決の手段を生み出す「①技術の変革」、次に一人ひとりのマインドチェンジを通した「②社会的価値観の変革」、最後に新たな社会システムの構築に関わる「③政策の変革」です。
 SDGsは複雑で、2030年までの目標達成は不可能だと思っている人が大半ではないでしょうか。達成のためには、まず1つの分野でもよいので解決に向けた糸口を見いだし、具体的な道筋をつけていく姿勢が何よりも大切です。
 SDGsの中でも地球環境問題に関連する項目は、技術主導型で解決策を模索しなければいけません。そこで重要になるのが再生可能エネルギーの普及・定着。大学や研究機関には、「発電」「送電」「蓄電」の分野で技術革新を進めていくことが求められます。蓄電分野にあたるリチウムイオン電池はノート型パソコンや携帯電話の電源としての利用を主目的に開発しましたが、2010年頃から電気自動車や蓄電システムなどへの展開が加速し、わずか5年後にはモバイル以外で利用される割合の方が高くなりました。この背景には、人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)による第4次産業革命が起こり、リチウムイオン電池の活路が飛躍的に広がったことがあります。今後も技術革新を通したパラダイムシフトはほかの分野でも間違いなく起こってくるでしょう。例えば、フードロスの問題。IoTとそれを支える5Gの通信システムが浸透し、食品に電子タグを付けて期限管理や値引きの表示・通知を自動的に行えるようになれば、食品廃棄は必ず減らせるはずです。

SDGsからESG投資まですべてがセットになった「強力な潮流」

――第4次産業革命がSDGs達成の鍵を握っているのでしょうか?

第1次、第2次産業革命のおかげで人類は豊かな生活を送れるようになりましたが、一方で地球環境問題をはじめとした「負の遺産」が数多く残されました。SDGsは、過去の産業革命に対する反省とも言えます。幸いにもITの進展による第3次産業革命が起こり、その後に情報とモノがつながる第4次産業革命が到来しました。この大きな波は、経済性や利便性を享受しながら環境問題も解決できるだけのポテンシャルを有しています。従来の価値観に基づいた大量生産・大量消費型の製品・サービスは、やがて消費者から見向きもされなくなるでしょう。現に、財務情報に加えて企業の環境・社会問題に対する取り組みを重視するESG(Environment Social Governance)投資が活発化しており、投資家たちの考え方も変化してきています。SDGsという1つの枠組みだけではなく、地球環境問題への取り組みやESG、そして第4次産業革命のすべてがセットになり、持続可能な社会の実現に向けた「強力な潮流」が起こってきているのです。

 今般の新型コロナウイルスもSDGsのいくつかの項目にまたがった問題で、「強力な潮流」に影響を与えることは間違いありません。ネガティブな面ばかりに目が向きがちですが、世の中が困っており、目標はあるものの解決手段がまだ確立されていないという状況は研究者にとってチャンスでもあります。理系研究者だけではなく、社会学者のさらなる台頭も必要不可欠です。世界の価値観が変わっていくときに、社会学者が旗手となって新しい社会システムを提案し、そのビジョン・方向性に応じて必要な技術を開発する。こうした好循環が生まれることで、イノベーションのスピードはますます加速していきます。
 コロナ禍は私たち人類に対する地球からの警告という見方もできます。落ち着いた時点で議論がなされて、社会のあらゆる面が見直されると思いますが、その中でSDGsに対する取り組みも今まで以上に真剣味を帯びてくるのではないでしょうか。

2030年までに「解決の道筋」を示すことが大人の責任

――次代を担う若者たちに伝えたいことはありますか?

SDGsの登場によって劇的に変わったと感じるのが、若年層の意識です。SDGsの全項目における約30%は地球環境に関するものですが、未来を生きる子どもたちにとって自分と切り離せないテーマなので、当然関心が高くなります。そもそも人類の存在が地球環境問題を引き起こしています。大人は本音と建前を使い分けられますが、子どもにはそれができません。私たちが生まれてきてよかったのか?という恐怖感が根底にあるのではないでしょうか。そこで、SDGs達成目標の2030年までに、少なくとも「解決の道筋」を示してあげることが大人の責任です。希望さえ見えれば、子どもたちは不安を抱えることなく、それぞれの探究心に応じてさまざまな研究や仕事に目いっぱい打ち込んでいけるのですから。
 今の高校生や大学生にとって、SDGsは絶好のチャンスです。社会に出て経験を積み、ある程度の裁量権を持って新しいことに挑戦できるのは、一般的に35歳前後からでしょうか。例え失敗してもリカバリーの機会はまだまだある年代。ちなみに、私を含む歴代ノーベル賞受賞者は「受賞の研究を何歳から始めたか?」という質問を必ず受けますが、実は平均が36・8歳なのです。ちょうど2030年頃にその年齢を迎える皆さんには、来るべき時に備えて今からしっかりと力を蓄え、輝かしい未来に羽ばたいてほしいと願っています。

革新的技術を確立し、ゼロエミッション社会の実現へ

ゼロエミッション国際共同研究センター長に就任

――2020年1月に産業技術総合研究所のゼロエミッション国際共同研究センター長に就任されました。今後の方針について教えてください。

産総研は、産業活動や消費活動によって排出される廃棄物をなくす「ゼロエミッション」につながる数多くの研究を行ってきました。まずはこれらの研究を本センターに集約し、相乗的に研究成果に結び付けていきたいと思います。ゼロエミッションは世界と協力しなければ実現できません。産総研の総合力を生かしながら、国内の諸機関はもちろん、海外機関とも積極的に連携し、国際交流を重ねながら種々の技術融合を図ります。
 技術面のイノベーションだけではなく、よりよい未来づくりに向けた情報やビジョンを積極的に「発信」し、個人ひいては社会に変革を促すことも私たちの使命です。そして、最終的には産業界が動かなければ世界は変わりません。経済的価値と社会的価値の双方を満たし、地球環境に貢献する技術が確立されれば、産業界は放っておいてもどんどん活用するでしょう。
 ゼロエミッションにとどまることなく、産業革命以降増え続けてきたCO₂を減少へと転じる「ビヨンド・ゼロ」の実現も含めて、人類共通の課題解決に向けた挑戦をこれからも重ねていくべきだと考えています。

<プロフィール>

吉野 彰先生

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 ゼロエミッション国際共同研究センター長

1948年大阪府生まれ。京都大学大学院工学研究科修了後、1972年に旭化成株式会社入社。新型二次電池の研究に従事し、1985年にリチウムイオン二次電池を発明。2017年から旭化成名誉フェロー、2019年にはノーベル化学賞を受賞。現在は、産業技術総合研究所ゼロエミッション国際共同研究センター長を務める。

ゼロエミッション国際共同研究センターについて

ゼロエミッション
国際共同研究センター
副研究センター長
福田 敦史

気候変動問題の解決を目指して誕生したイノベーション拠点

2019年10月の「グリーンイノベーション・サミット」において、安倍総理から世界の英知を集結する「ゼロエミッション国際共同研究拠点」の立ち上げが表明されました。これを受け、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)に設立されたのが、ゼロエミッション国際共同研究センター(GZR)です。GZRではG20を中心とした世界有数の国立研究機関と共同で、革新的技術に関する研究(再生可能エネルギー、蓄電池、水素、CO₂分離・利用、人工光合成等)を行い、ゼロエミッション社会を実現する革新的環境イノベーションの創出を目指しています。

ゼロエミッション
研究戦略部
研究企画室長
工藤 祐揮

SDGsの目標達成に貢献する技術を開発

GZRが属する産総研エネルギー・環境領域の研究テーマは、「世界的規模で拡大するエネルギー・環境問題の解決」です。現在は、新エネルギーの導入を促進する技術や、エネルギーを高密度で貯蔵する技術、エネルギーを効率的に変換・利用する技術、エネルギー資源を有効利用する技術、環境リスクを評価・低減する技術の開発を進めています。これらは、SDGsのゴール7「すべての人々に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する」や、ゴール9「レジリエントなインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」に貢献していく技術となります。

掲載紙

今回のインタビューは、東洋経済新報社と株式会社WAVE/WAVE・SDGs研究室が制作した「東洋経済ACADEMIC SDGsに取り組む大学特集 Vol.2」に掲載されています。

東洋経済ACADEMIC SDGsに取り組む大学特集 Vol.2 ポスト2030に向けた知と実践

SDGsが国連サミットで採択されて以降、その取り組みは大きなムーブメントとなり世界に広がった。5年が経過した今、その活動や成果が注目されつつある。教育研究機関である大学にとってもSDGsの重要性はさらに高まり、「技術革新」と「社会的意義の発信」を担うべく2030年の目標達成に向けて「行動の10年」を模索している。ポストSDGs社会を念頭に動く教育研究機関の真価に迫る。