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性別による偏見を取り払えば、新しい社会が見えてくる――ジェンダー平等の実現へ向けて、一歩踏み込んで考えよう。

なるほど!

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SDGsのゴール5では「ジェンダー平等」が掲げられており、性別による格差の是正は世界全体で挑むべき課題となっています。しかし、こうした潮流がある一方で、ジェンダーに対するステレオタイプが根強く残っていることも事実です。無意識の偏見を取り除き、ジェンダー平等を実現するためには、男女それぞれが置かれる状況への理解が欠かせません。今回は、実際のデータを参照しながら日本のジェンダー問題について考えます。

近年明らかになったジェンダー・ステレオタイプに基づく問題

「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」――2021年2月、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森前会長が発した言葉は、多くの人の記憶に残っていることでしょう。女性理事を増やすという日本オリンピック委員会(JOC)の方針に対して述べられたこの意見は、報道によって世間に広がり、国内のみならず海外からも大きな批判の声が上がりました。森前会長は翌日に発言を撤回したものの波紋は収まらず、一週間後に辞任の意向を表明。騒動によって、日本のジェンダーギャップの深刻さを世界に示す結果となりました。

こうした男女の格差は、個人の意識だけでなく、社会的な制度にまで及んでいます。2018年には、東京医科大学の入試における女子受験者の一律減点が発覚。男子をより多く合格させるため、10年近く不正な点数調整が行われていたことが明らかになりました。背景として「妊娠・出産などで離職する女性医師が多い」状況があるといわれますが、そもそもの問題はライフイベントを前提とした働き方が設定されていないことです。今後は受験者を正当に評価するだけでなく、医療現場の働き方改善が求められます。さらに、社会全体を挙げて男女双方が育児に参加できる制度を構築することも必要です。

近年はジェンダー問題に対し、SNS上などで「#me too」運動をはじめとする活発な議論が巻き起こるようになりました。さまざまな事例に対し、社会状況をふまえた明快な見解が語られる一方で、「許せない」「私の周りでも…」といった、自分自身の経験や感情を拠り所にする意見の応酬が見られます。性別は誰にとっても切り離せないテーマであり、各々の考えが生まれることは当然ですが、「女が不利だ」「男だって損してる」とお互いの立場を主張するだけでは、状況はなかなか変わりません。まずは、男性・女性が経験する不平等を知り、俯瞰的に検討することが、ジェンダー問題を解消する第一歩ではないでしょうか。ここからは、日本の現状を示すデータの数々をご紹介します。

女性の活躍が推進される一方で、未だ残る社会進出への障壁

第2次安倍内閣では、「3本の矢」の成長戦略の一つとして女性の活躍を提唱。保育所・保育士の増加による待機児童ゼロの実現や、育児休業期間の給付金の増額、女性管理職比率の上昇など、さまざまな角度から女性が働きやすい社会づくりを進めることを公約しました。2020年に発足した菅内閣でも、引き続き男女共同参画に向けた取り組みが掲げられています。数々の施策によって新たな社会への道が開かれたかのように見えますが、実際の数値からは先行きの険しさがうかがえます。

大学進学率の男女差

令和2(2020)年度の大学(学部)進学率は、女子50.9%・男子57.7%と、男子の方が6.8ポイント高くなっています。平成22(2010)年度は女子44.2%・男子55.9%と10ポイント以上の差があり、徐々に状況が改善されていますが、未だ同率にはなっていません。こうした状況の背景には、女性の学歴獲得、ひいては社会での活躍を軽視する社会通念があると考えられます。

女性管理職比率の低さ

就業者に占める女性の割合が44.5%であるのに対し、管理的職業従事者※に占める女性の割合は13.3%。アメリカやイギリスでは管理的職業従事者の40%以上を女性が担っており、日本は諸外国に比べると非常に低い数値となっています。原因として考えられるのが、「男性は仕事、女性は家事」という固定的な性別役割分担意識です。その影響は、女性の大学進学率の低さや、後述する家事・育児分担の不平等、男性の長時間労働問題にも及んでいます。

※就業者のうち、会社役員、企業の課長相当職以上、管理的公務員等。

家事・育児分担の不平等

平成30(2018)年の調査では、女性の育児休業取得率は82.2%。一方、男性では6.16%にとどまっています。また、6歳未満の子供を持つ夫婦の家事・育児関連時間(週全体平均・一日当たり)は、妻が7時間34分、夫は1時間23分。男性の家事・育児関連時間は先進国の中でも最低の水準です。女性は第一子出産後に半数近くが離職するという状況が続いていますが、こうした分担の不平等が要因の一つだと考えられます。

「男らしさ」信仰がもたらす、無自覚な生きづらさ

女性の活躍機会を確保することだけが「ジェンダー平等」ではありません。社会で優遇されているはずの男性の状況についても、検証すれば多くの問題が浮かび上がってきます。それらが世間で取り沙汰されない理由のひとつには、男性に逞しさ・勇敢さを求める「男らしさ」信仰があるのではないでしょうか。幼い頃から「男なら泣くな」と教わり、一家の稼ぎ頭となるための教育を施されることで、男性は困難な状況にも立ち向かわざるを得なくなります。その弊害は、数々のデータに表れています。

長時間労働の常態化

令和2(2020)年度において、週間就業時間が60時間以上の雇用者の割合は、男性7.7%、女性1.9%。中でも、「子育て期」とされる30代~40代の男性では10%近くに上ります。原因として、女性の正規雇用の少なさ(令和2(2020)年度の非正規雇用労働者の割合は、女性54.4%、男性22.2%)や、「滅私奉公」的な働き方を奨励する組織風土があると考えられます。

家事・育児参加をはばむ環境

前章で男性の育児休業取得率の低さについて触れましたが、平成29(2017)年度の調査によれば、「育児休業の利用希望があったにもかかわらず利用できていない」男性は35.3%存在しています。その理由として挙がっているのは、会社の育児休業制度の不整備や、職場の雰囲気、人手不足など。男性の家庭参加に対して、未だ制度の構築や意識改革が追いついていないことが分かります。

女性の2倍に上る自殺者数

令和2(2020)年度の自殺者数は、男性14,055人、女性7,026人。いずれの年でも、男性の自殺者数は女性の2倍以上となっています。また、平成28(2016)年度に実施された意識調査では、「悩みを抱えたときやストレスを感じたときに、誰かに相談したり、助けを求めたりすることにためらいを感じるか」という設問について「そう思う」と答えた女性が41.9%だったのに対し、男性では52.4%と、10ポイント以上の差が開いています。弱音を吐けない環境が、男性を自殺へ追い込む原因の一つになっているのではないでしょうか。

女性の昇進を阻む目に見えない制限を示す「ガラスの天井」という言葉に対し、アメリカの社会学者ワイン・ファレルは男性が押し込められる過酷な状況を「ガラスの地下室」と表現しました。本人にとっても見えづらい(自覚しにくい)問題なだけに解決は容易ではありませんが、まずは現状を客観的に認識することが大切です。

思考をアップデートする難しさに向き合う

ここまで男性・女性という区分で問題を取り上げてきましたが、今後の社会で求められるのは、ジェンダーによる問題を理解しつつ、あくまで個人に寄り添う姿勢です。「女性活躍」「男性の家庭参加」に向けた機会を設けることはもちろん重要ですが、それらの達成のために一人ひとりの事情が考慮されないという事態はあってはなりません。「女性管理職比率を上げるために登用されたけど、自分に実力があるとは思えない」「イクメンが推奨されるが、収入が減るので育児休業は取得できない」など、素朴な実感を見過ごした全面的な改革は、かえって人々の幸せを妨げてしまいます。

また、現代においてジェンダーを考えるには、男性・女性だけでなくLGBTQといった性的マイノリティへの理解が不可欠です。多様な人々を受け入れる体制を整えることは、SDGsゴール5のターゲット6「性と生殖に関する健康及び権利への普遍的アクセスを確保する」にもつながります。現在、自治体でのパートナーシップ制度の導入や、企業のLGBTQ研修など、多くの取り組みが進められていますが、一方で公人による差別的な発言が度々問題となっています。

冒頭に挙げた森前会長の意見も、十数年前であれば一定の支持を得たのかもしれません。しかし、現代では批判の声が噴出し、大きな問題となっていることから、人々の意識の変化が伺えます。男性・女性・性的マイノリティなど、多様な人々を受け入れる体制の構築は、「誰一人取り残さない」持続可能な社会を実現するために欠かせません。個人が人生の中で培ってきた信条と、社会に広がる思想は時に食い違うこともあるでしょう。それらをすり合わせる難しさに向き合い、思考をアップデートしていくことが、一人ひとりが人生を自分らしく生きていく上で大切なのではないでしょうか。

<参考>
男女共同参画局「男女共同参画白書 令和3年版」
厚生労働省「令和2年版 厚生労働白書 ―令和時代の社会保障と働き方を考える―」
男女共同参画局「令和2年版 男女共同参画白書『コラム1 生活時間の国際比較』」
厚生労働省「男性の育児休業の取得状況と取得促進のための取組について」
厚生労働省・警察庁「令和2年中における自殺の状況」
厚生労働省「平成28年度 自殺対策に関する意識調査」