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【北海道大学】唯一無二のフィールドで 世界に貢献する「比類なき大学」へ

北海道大学札幌キャンパスの中央ローン。市民の憩いの場にもなっている。

持続可能な環境づくりは100年以上前から

北海道大学 総長 寳金 清博

 国連で2015年に採択されたSDGsは言うまでもなく、世界の賢人たちが熟議を重ねた結果として精選され、構造化された人類共通の目標です。一方、北海道大学は脱炭素やSDGsの概念が出現する100年以上前から、自然と共生する「サステイナブルキャンパス」という考えの下で学内の環境整備を行い、持続可能な社会の実現に資する教育・研究に注力してきました。
 その本学が、建学以来のフロンティア精神で「世界の課題解決に貢献する北海道大学」を展望して掲げたのが「近未来戦略150」です。そこには、2026年の創基150年を目前に控えた決意が込められています。この戦略をベースに「キャンパスマスタープラン」、さらに、すべての部局が主体となって実行する「サステイナブルキャンパス構築のためのアクションプラン」を策定しました。
 アクションプランで設定した第一の目標が「サステイナビリティに特化、関連した科目の推進」です。具体的には学部、大学院においてSDGsや持続可能性に関連する400を超える授業を行っています。1年生の全学教育科目として「ロバスト農林水産工学(持続可能な社会に向けて現場から学ぶ)」もスタート。産学協同の研究会に参画してくださっている民間企業の方にも講師をお願いし、幅広い興味と視野を持つ人材の育成に努めています。

国内1位に慢心せず、弱点を克服する

 社会貢献に関する本学の先駆的な取り組みは、多方面から評価されています。「THEインパクトランキング」で、2020年、2021年と連続して国内1位となったのは大変に名誉なことです。札幌農学校を前身とする本学の歴史的設置経緯、地誌的価値、陸上・海洋で展開されるフィールド研究などの成果でしょう。
 ただ、個別に見ると課題もあります。目標実現に向けた実施手段の強化をうたうSDG17に対する評価は不十分で、強化しなければなりません。そのうえで重要なことは、ランキングはさまざまな活動が評価された「結果」であり、目的ではないということです。世界の大学と比較される中で見えてきた弱点を克服し、社会において責任を果たしていく。そのプロセスこそが、ランキングに参加する意義なのだと思います。

THE インパクトランキング2021 世界TOP200 位以内・国内同列1 位にランクイン
イギリスの高等教育専門誌「Times Higher Education(THE)」が発表した「THEインパクトランキング2021」。
国際的な目標である持続可能な開発目標(SDGs)に対する各大学の取り組み等に基づき
大学の社会貢献度をランク付けしています。

専用サイトを立ち上げ社会への情報発信にも注力

2020年10月、第20代北海道大学総長を拝命するにあたり、私は『「光」は「北」から「北」から「世界」へ』という言葉を発信しました。「光」は大学としての教育と研究の成果であり、漆黒の荒海の中で「灯台の光」のように向かうべき方向性を照らしてくれるもの。「北」とは北海道大学そのものであり、冷涼で厳しい風土という一般的な概念も含んでいます。厳しい環境の中にこそ、本当の研究や教育が生まれるべきであるという願いを込めているのです。「北」という地域から「世界」へ。まさにThink Globally, Act Locally の精神で取り組んでいきたいと考えています。
 SDGsや脱炭素など、従来の価値観が大きく変わる転換期を迎えた今、大学での教育・研究も運営も思い切った変化へと舵を切っていかなければなりません。経営収入の面からはESG投資の視点も必要ですし、SDGsの観点から協働できる民間企業との産学連携も不可欠でしょう。そうした社会との関わり(エンゲージメント)を強めるため、2020年にSDGs専用サイトを立ち上げました。また、この数年間で「国際感染症学院」「医理工学院」「国際食資源学院」などの新たな大学院を創設しており、「環境科学院」での新コース開設準備も進めています。日本有数の恵まれたフィールド資源と地政学的な特徴を活用しつつ、全構成員の力を結集して世界の課題解決に貢献する「比類なき大学」を目指します。

北海道大学×SDGs
北海道大学×SDGsウェブサイト 本学のSDGs達成に向けた各種取り組みを掲載。詳しくはこちらよりご覧ください。

「THEインパクトランキング」で北海道大学が2年連続国内1位に

 史上最多の世界1240校が対象となった2 0 2 1 年の「THEインパクトランキング」。日本からも85校と過去最多の参加大学数となったが、このうち北海道大学は総合ランキングで国内1位タイを獲得した。前年に続き、2年連続の国内トップである。
 北海道大学は2005年に「持続可能な開発」国際戦略本部を立ち上げ、以来サステイナビリティを教育や研究の柱に位置付けてきた。例えば、地域の生産者に持続可能な農業の知識・技術を提供するJAグループ北海道との取り組み(SDG2)。そのほかにも世界でも類のない出生率の向上と低出生体重児の減少を目的とした岩見沢市「母子健康調査」(SDG3)、北極域の環境変化の実態把握などの先進的な研究(SDG 13)をはじめ、活動は多岐にわたる。国内でも高い評価を受ける北海道大学。SDGsの達成に寄与する取り組みから、代表的なものを紹介する。

飢餓をゼロに

SDG2 飢餓をゼロに

スマート農業、学際的教育で食を支えるリーダーを育成

 北海道大学では、世界初の本格的な農業ロボット開発に成功した大学院農学研究院・野口伸教授を中心に、スマート農業の研究・開発に取り組んできた。産官学連携協定を締結したNTTグループ、岩見沢市とともに世界最先端のスマート農業の実現に向けた取り組みを行っている。また、2022年には「スマート農業教育研究センター(仮称)」を新設予定だ。
 また「大学院国際食資源学院」では、食問題の包括的理解のため、国内外の多彩な教員が指導。文理の枠を超えた多様な学びで、食資源の危機に立ち向かう国際的リーダーを養成している。

AIや5Gを用いたロボットの改良を進める
無人トラクターによる農作業の様子。今後もAIや5Gを用いたロボットのさらなる改良を進める
14.海の豊かさを守ろう

SDG14 海の豊かさを守ろう

実学教育を通して水産資源の保全と利用を

 水産学部で行われているのは、練習船を使った実習だ。広大な海に囲まれた地・北海道で、学生は練習船に乗り込み、理論だけではない水産学の知識と技術を修得している。また、「バランスドオーシャン事業」では、海洋分野のトップサイエンティストの早期発掘と育成を行っている。
 北極域研究センターが実施する「北極域研究加速プロジェクト(ArCSⅡ)」では社会科学の研究者と連携し、北極海の生物多様性保全や生物資源の持続的利用の実現を目指す。

北海道大学水産学部附属練習船「おしょろ丸」
15.陸の豊かさも守ろう

SDG15 陸の豊かさも守ろう

7万haの研究林を活用し、幅広い教育・研究を実施

 北海道大学が保有する研究林は総面積7万haと、一大学の施設としては世界最大規模。原生林を含む森林や河川、多様な生物が棲息するフィールドで、陸の豊かさを守るための幅広い活動を行う。
 除伐や苗木の植え付けによって森林を再生させ、生物多様性・生態系の保全を図る「北の森林プロジェクト」を実施。ほかにも、森に精通した教職員による公開実習、調査データの提供、研究林利用の受け入れを行い、学外とも連携した森林保全の活動を展開している。

道内を中心に7カ所ある研究林の一つ雨龍研究林

「北大リサーチ&ビジネスパーク」を軸に「知」を還元する

 世界トップレベルの研究・教育の成果を社会の問題解決に生かしていこう―。そんな思いから北海道大学が発足させたのが、産学連携の専門組織「産学・地域協働推進機構」。大学職員や専任教員と民間企業が共同研究を実施する「産業創出講座」など、社会連携に力を入れている。
 産学連携活動の拠点として機能しているのが「北大リサーチ&ビジネスパーク」だ。広大なキャンパスを持つ北海道大学ならではの施設で、公的研究機関や府省・自治体、地域経済界の各組織が結集する。ここでは大学が持つ知的財産や機器を活用した新技術・新商品の開発、大学発ベンチャーや新たなビジネスの創出が日々行われている。これらの活動の根底に息づくのは、研究者の高い研究力と「知」を産業界へつなぐという思いだ。
 充実した研究・ビジネス環境を生かしながら、未来の礎を築き、社会へ貢献していく。

ロバスト農林水産工学国際連携研究教育拠点構想

ロバスト農林水産工学国際連携研究教育拠点構想

研究シーズと現場ニーズをマッチング「ロバスト農林水産工学国際連携研究教育拠点構想」

北海道大学は、現場ニーズに基づいた次世代農林水産工学技術を開発するためのプラットフォーム「ロバスト農林水産工学国際連携研究教育拠点構想」(以下、ロバスト拠点構想)をスタートさせた。そのミッションは「自然災害にも強い“食”を中心としたバリューチェーンの形成」だ。大学や研究機関、農林水産業に携わる生産者、企業や自治体などの多彩なメンバーが集い、それぞれが持つニーズとシーズをマッチングする。
 食をはじめ健康・医療・医薬にも関連するこの構想では「超小型衛星による世界最高水準のスペクトル計測」「ポリフェノールによる氷点下での冷蔵保存」などユニークな研究を行っている。ロバスト拠点構想は、共同研究を推進するための研究環境を、大学と企業等で国の研究開発プロジェクトなどに申請しながら共同整備する。
 近年の注目は、「マルチスケールなエネルギー収穫・貯蔵システムによる適度な分散社会の可能性に関する調査研究」。2021年1月に国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が選定するビジョン策定に関わるミレニア・プログラムに採択され、期待が寄せられている。
 オープンで自由な場として広く門戸を開いているロバスト構想には、140を超える企業等が参画。持続可能な食料生産を実現する社会を目指し、『「知」の集積と活用の場®』も活用。小さな萌芽を育てながら新しい学問領域を創生し、農林水産業のロバスト化、農林水産業の魅力向上に寄与するための取り組みを継続させていく。

「知」を創出するサポート組織

地域・社会と、リソースを共有することでさまざまな組織との産学連携活動をサポートしている。

産学・地域協働推進機構

企業と北海道大学をつなぐ産学連携の拠点。研究成果の社会実装に向け、地域や企業と一体となって取り組む。

大学力強化推進本部研究推進ハブURA ステーション

北海道大学の研究力強化にむけた戦略立案と実行を担う研究・経営マネジメントの専門家組織。ランキング、科研費支援や大型研究プロジェクトの獲得支援などを担当。

グローバルファシリティセンター

北海道大学が保有する各種の高度な研究機器を整備・管理・運用。さらに、国内外の民間企業等との共同利用や、国際的な教育・人材育成も実施。

人材育成本部

学内外の各組織と連携し、博士後期課程学生、博士研究員のキャリアデザインを支援。若手研究者育成システムやダイバーシティ研究環境の整備を推進。

掲載紙

今回のインタビューは、東洋経済新報社と株式会社WAVE/WAVE・SDGs研究室が制作した「東洋経済ACADEMIC SDGsに取り組む大学特集 Vol.3」に掲載されています。(一部改変)

東洋経済ACADEMIC
SDGsに取り組む大学特集 Vol.3

-アフターコロナの次代へ
SDGsの実践で変革する社会

SDGsが国連サミットで採択されてから約6年が経過し、2020年から「行動の10年」がスタート。SDGsが世間に浸透し始め、大学や企業による実践が加速する中、折しも「コロナ禍」によって、旧来の社会システムを抜本的に問い直し、真に持続可能性な世界を希求する機運が高まっている。本誌では、社会混乱に対応しながら教育を提供し、地球規模の課題に取り組み続ける教育研究機関・大学の姿をレポートする。また、産業界やアカデミズムから生まれつつある、次代を切り拓く鍵となる新指標やアイデアを考察し、未来社会のあり方に迫る。