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夏に飲みたい!サステナブルなビールをご紹介。-醸そう、SDGs-

暑い夏は冷えたビールが最高においしい季節。今回は、SDGsに貢献するためにユニークな取り組みを実施しているビール製造企業と、その商品を紹介します。夏のギフトやご自宅用にビールの注文を検討する際は、ぜひ参考にしてください。

規格外の果物・野菜を活用!元銭湯の醸造所が個性的な上方ビール

大阪の下町・淡路に、知る人ぞ知る日本初の銭湯ブルワリー、株式会社上方ビール(大阪市東淀川区)があります。惜しまれつつ廃業したかつての銭湯をリノベーションし、昭和の情緒あふれる建物内でオリジナルのブランドビールを製造。ビールを通じた新たな地域活性でSDG11「住み続けられるまちづくりを」に貢献しています。

上方ビールはまちづくりだけでなく、SDG12「つくる責任 つかう責任」で課題として挙げられる食品ロス問題の解決にも寄与します。光を当てたのは、大きさや形が規格外のため農家が販売できず、廃棄対象となった農作物です。農家とコラボし、大量の規格外農作物を原料に、今までにないテイストのビールを製造・販売しています。 銭湯にちなんだネーミングがユニークな「キウイの湯」「トマトの湯」「文旦の湯」は、それぞれ規格外の果物や野菜を使用。フルーツ由来の酸味と甘みがビール本来のコクとマッチして、さっぱりとした後味を楽しめます。

パンが生まれ変わったビールCRUST LAGER

パンとビール、どちらも小麦や大麦などからつくられる食品ですが、パンを原料とするビールがあるのをご存じですか?国内の工場から廃棄予定のパンを、酵母と麦芽で発酵させたビールCRUST LAGER。自然が豊かで水の聖地とも呼ばれる長野県白馬で醸造されています。このビールに使用されているのは、日本アルプスの天然水です。食品ロスのアップサイクルで、食品廃棄によって発生するCO2を削減し、SDG12「つくる責任つかう責任」だけでなくSDG7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」の達成に貢献しています。 ビールを製造するのは、2030年までに世界の食品ロス1%削減という目標を掲げるCRUST Groupの日本法人CRUST JAPANです。廃棄予定の食品を燃料や肥料にするダウンサイクルはなく、新たな原材料に活用するアップサイクルを実施することで、食品を作る工程で発生したエネルギーを無駄にしません。焼却などの廃棄にかかるエネルギーも必要がないので、温室効果ガスの削減につながり、SDG13「気候変動に具体的な対策を」の達成にもつながります。

「よなよなエール」ブルワリーが販売する、ビール生まれのクラフトジン

続いて紹介するのは、「よなよなエール」で有名な株式会社ヤッホーブルーイングが発売したクラフトジンです。ビールを紹介する記事でジンを紹介するのには理由があります。その原材料に使われているのが、なんと廃棄寸前のクラフトビールなのです。食品ロスの削減を通じてSDG12「つくる責任つかう責任」、なかでもターゲット12.5「2030年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。」に寄与しています。

きっかけは、新型コロナウイルス感染症の影響で飲食店向けのクラフトビールが大量に余ったことです。約12,000Lがお客さんに届くことなく廃棄されるところでした。クラフトビールの醍醐味である香りや味の繊細なバランスは時間が過ぎれば崩れてしまうもの。賞味期限が迫るなかで、「せっかくつくったビールを捨ててしまうのはもったいない」と社員が知恵を絞り、ある活用法を見出しました。それが、クラフトビールを蒸留してジンとして新しい商品に生まれ変わらせることです。ブルワリーの地元・長野県佐久市にある戸塚酒造株式会社と共同で、クラフトビール生まれのクラフトジン「未来ヅクリ2020」を開発。フルーティーな香りと麦芽ならではの甘みが、ジンの軽やかな味わいの中で楽しめるこの逸品は、1200本余りを完売し、SNSでも好評を博したそうです。 この他にも、ヤッホーブルーイングでは店頭での売れ残りによる廃棄のリスクを抑えるために、品質の改善を積み重ねて賞味期限の延長を実現するなど、多様な取り組みを行っています。より美味しいビールを追求しながら持続可能な社会の構築を後押ししています。

「未来ヅクリ2020」

写真は2021年バージョン「未来ヅクリ2021」です。2021年も飲食店での酒類提供禁止要請によりクラフトビールが余ってしまいました。前年の知見を活かしてさらに磨きをかけた味わいで、この年も好評でした。

紹介した企業では、SDG12「つくる責任 つかう責任」の食品ロス問題を中心に、様々なゴール達成に貢献しています。商品に宿るストーリーを知れば、ビールがよりおいしく感じられるかもしれませんね。

ビールで広がるSDGs共同研究の輪

ビールをキーワードに、大学と企業のSDGsに関する共同研究も実施されています。

琉球大学とオリオンビール株式会社は2020年12月に「SDGsに関する産学連携協定」を締結。地元・沖縄の1次産業(農業)と2次産業(製造業)をシームレスにつなげ、沖縄の資源循環を実現するための産業基盤づくりを目指しています。 具体的には、ビールの製造過程で発生する大量のビール粕を堆肥に活用して、栄養が豊かな土壌をつくり出し、その地で栽培された大麦でビールを醸造。ビール粕を起点に資源を循環させ、新しい商品を生み出すというものです。SDG9「産業と技術革新の基盤づくり」、SDG12「つくる責任、つかう責任」の2つを軸に、その他のゴールと関連しながら活動を展開しています。

岡山大学と宮城県内陸に位置する加美町の第三セクター「やくらいビール」は、共同で「復興エール」というビールをつくりました。岡山大学は、津波被災農地の活用を目指して海水が流入した畑でも栽培できるように、塩害に強い系統と良質な醸造適性を有する系統を交雑。新しい大麦を開発し、東日本大震災の影響を受けた加美町などの土壌へ作付けしました。そこで収穫した大麦を原料に、柑橘風味で深みのある苦味が特徴のクラフトビール「復興エール」を「やくらいビール」が醸造しています。SDG11「住み続けられるまちづくりを」でも重要なテーマ、レジリエンスに関連する共同研究で、自然災害にあっても回復できる土地づくりや作物栽培に貢献しています。

ビール選びというちょっとした行動でも、SDGs達成に向けた取り組みを少し応援することができます。お酒を楽しみながら、誰一人取り残さない輝く未来へ。日常から一歩ずつ前に進んでいきましょう。

<参考>