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【広島大学】大学と自治体が結び付いた「Town & Gown」広島発の地域共創モデルを全国へ

企業との共同研究や地方自治体との地方創生など、これまでも多様な連携によって社会にインパクトを与えてきた大学。SDGsにおけるソリダリティの担い手としても大きな役割を果たしている。個性や特徴を生かしてSDGsに取り組む大学のさまざまな連帯・連携のあり方にフィーチャーしていく。

互いのシーズを提供し合い、 包括的かつ日常的な協働を推進

地方の少子高齢化や過疎化が進む中、持続可能な発展のために大学と自治体が二人三脚で地域の課題解決にあたることが求められている。これまでとは違う次元での連携が必要とされる中で注目されているのが、モデルケースとなるような取り組みを実践している広島大学と東広島市だ。2019年度よりTown & Gown 構想がスタートし、準備室の設置を経て、2021年にTown &Gown Office(以下、「TGO」)が設立された。ここでは大学の教職員と市の職員が互いのシーズ(教育研究資源や行政資源など)を提供し合い、地方創生の実現に向けて包括的かつ日常的な協働を進めている。

TGOは、大学と市の共同事業によって建設された広島大学フェニックス国際センター(ミライクリエ)にオフィスを構える。広島大学スマートシティ共創コンソーシアムを設置したことで、参画企業8社と連携し、キャンパスを舞台とした科学技術イノベーションの実証実験が可能となった。実証実験のフィールド整備には企業版ふるさと納税制度を活用して資金調達するなど、その取り組みは先進的だ。研究成果は学生や地域住民を巻き込みながら周辺地域に還元され、持続可能な未来都市づくりへとつながっていく。

電動キックボードの実証実験の様子

実績をパッケージ化し 日本全国へ展開

前述の取り組みについて他県の大学や自治体からの問い合わせが増加したことをきっかけに、「全国Town & Gown構想推進協議会」が立ち上がろうとしている。TGOの金子慎治室長(広島大学理事・副学長)は次のように語る。 

「広島大学がこれまでに積み上げてきたノウハウや成功事例は、全国各地においても課題解決の有効な手段となるはずです。大学と自治体の組織的で安定した連携は、企業にとっても安心して参加できるイノベーションの共創基盤になります。この枠組みを広く共有することに社会的意義があると感じました。人口動態に大きな影響を与えるような取り組みを進め、持続可能な地域の発展と大学の進化を通じて、日本を地域から躍動させたいと考えています」

全国Town & Gown 構想推進協議会の準備会に参加したのは、島根大学、愛媛大学、高知大学、近畿大学、立命館アジア太平洋大学の5大学および連携する自治体。かねて地域との連携を図ってきた大学や、国際的なまちづくりに強みを持つ大学など、多様な大学が出そろった。  

市の職員も交えた国際交流イベント

「特徴の異なるさまざまな大学が参加したことで、Town &Gown のパッケージに汎用性が生まれるでしょう。協議会では、各大学・自治体が今後どのようなテーマを中心に連携を進めていくのか検討します。例えば、広島大学は総合研究大学という特徴を生かして、産学官連携でキャンパスの『カーボンニュートラル×スマートキャンパス5.0』に取り組んでいます。各大学が自身の強みを生かし、地域に寄与できるテーマを探っていきます」(金子室長) 

2022年5月に行われた準備会では、各大学・自治体のトップ同士が意見を交換。今年度上半期に協議会を設立することを目標にしているという。

連携を深化させる人材育成、認定・認証制度の確立を目指す

協議会で検討されているのが関係団体と連携した人材育成と「Town & Gown 認定・認証制度(仮称)」の導入だ。アメリカ・ITGA(International Town& Gown Association)での先行事例も参考に、協議会に参画する大学と自治体の組織や予算、政策合意の連携の規模等からレベルを認定する。現状の可視化や目標設定に役立ち、各大学・自治体は「連携の質」を段階的に高めていくことができる。

「従来の教員個人と自治体の連携では、持続性がなかったり、予算措置が伴わないなどの課題がありました。しかし、組織対組織の連携を実現することで、まちづくりなど両組織の将来構想に影響するような大きなプロジェクトを実施できるでしょう。地方大学と地域が互いの発展に不可欠な存在となり、地方創生の一翼を担ってほしいと思います」と東広島市から出向しTGOでシニアリサーチャーを務める渡邉達生氏は協議会の未来に期待する。  

今後、全国への波及を目指すTown & Gown の連携モデル。各地域における連携の形を相互に共有することで、日本全体における地域課題の解決や地域目標の達成に貢献していく。

掲載紙

今回の記事は、東洋経済新報社と株式会社WAVEが制作した「東洋経済ACADEMIC SDGsに取り組む大学特集 Vol.4」に掲載されています。

東洋経済ACADEMIC SDGsに取り組む大学特集 Vol.4「行動の10年」の新たなステージへ 持続可能な社会実現に向け加速する「連帯・連携」

2015年に国連で掲げられたSDGs(持続可能な開発目標)。SDGsをめぐる大学の活動は、啓発、実践を経て「行動の10年」を見据えたさらなる加速と深化が求められている。それらを具現化すべく、国際社会や地域社会における「連帯・連携」もパワフルに展開中であり、各界の注目は高まる一方である。本誌は、シリーズ第4弾として、国連、政府、産業等、バラエティ豊かな各大学の連携状況を克明にレポート。SDGsによる大学教育革新の中核に迫る。