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【広島大学】広大 もったいなれっじ~持続可能な未来のヒント~ Hint3, 4

広島大学の研究室では、SDGsの達成に貢献するさまざまな知が日夜生まれています。読めば必ずためになる、こんなに魅力的な研究を知らないなんて、もったいない!

今回は、平和と平等、そしてそれを実現するまちづくりについて特集。世界中が求める大きな目標を達成するために私たちは何ができるのでしょうか。

Hint3 
北米先住民の文学作品に 
描かれた核開発と搾取

松永 京子准教授
まつなが きょうこ/

大学院人間社会科学研究科 欧米文学語学・言語学講座(アメリカ・イギリス文学分野)に所属。北米先住民文学の中で核や原爆などがどのように表現されている のかについて研究している。

 

 

ラン採掘や核実験場が集中

皆さんは、原爆や核戦争をテーマとした小説や詩を読んだことはありますか。広島・長崎の原爆を題材としたものなどが世界中で多数発表されている中で、特に私は北米の先住民作家による「核文学」や「原爆文学」について研究しています。 

核や原爆と北米先住民の間には実は深い関係があります。核エネルギーの材料となるウランの採掘が先住民の土地で行われていたり、核実験場や核廃棄物などが先住民の居住地に集中していたりするのです。サイモン・J・オーティーズの『ファイト・バック』をはじめとする先住民文学は、経済的理由から核に関係する仕事に就かざるを得ず、人々やその土地が搾取されている現実を訴えています。また、先住民が放射能汚染のリスクを負担するのは、立場の弱い人々から搾取を行う植民地主義の典型的な形であると、問題の根深さも指摘しています。

実を知ることが、社会を変えるきっかけに

核と北米先住民の関係のような、一般には知られていない問題を分かりやすく提示するのに効果的な役割を果たすのが文学作品です。日本は原子力発電を利用していますが、ウランの生産や核廃棄物の処理のために、誰がリスクを負い、どのような不平等が生み出されているのか、意識することはあるでしょうか。かつてレイチェル・カーソンの『沈黙の春』が警鐘を鳴らしたことからアメリカでDDT※の使用が禁止されたように、文学作品が人々に新たな視点を与えることで、いずれ社会を変える力が生まれるでしょう。 

北米先住民の核・原爆文学を研究していると、不平等をなくすことと、持続可能なまちづくりはつながっていると気付かされます。政治的・経済的な理由から原発や核廃棄物を受け入れることは、短期的には地域の成長につながりますが、不均衡な汚染のリスクを負担してしまうため持続可能なまちづくりは実現できません。全てのコミュニティから不平等な負担をなくすことこそが、長期的に住み続けられる社会の構築につながるのです。

※有機塩素系の殺虫剤の一種。

世界で初めて核実験が行われた「トリニティ・サイト」。近くには北米先住民の居住地が存在する

Hint4 
ヒロシマの記憶を
未来へつなぐ意味とは

ファン デル ドゥース 瑠璃准教授
ふぁん でる どぅーす るり/広島大学平和センターに所属。大学院人間社会科学研究科 国際平和共生プログラム併任。専門は、記憶学※、社会言語学、言説表象分析など。※多分野・多領域横断型の学問。社会学、社会科学、心理学、応用言語学、博物館学、美術学、医学、情報学、観光学、経済学、法学、工学・国際政治学などさまざまな分野の専門家が研究にあたる

 

 

自分と他者の視点を分野横断的に分析

熱線で表面が泡状になった瓦や、溶けてねじれたガラス瓶、人影を写す変色した石段、折れ曲がった鉄骨が剥き出しの被爆遺構。広島には、原爆が残した爪痕が今も数多く保全されています。思わず目をそむけたくなるような歴史の残骸をなぜ大切に守るのか、ヒロシマの記憶が、私たちの将来にどんな影響力を持つのか、私が専門とする実証記憶学の観点から、この問いに答えたいと思います。実証記憶学とは、エビデンスを用いて過去の記憶が現在に与える影響を分析し、将来の意思決定にどう関与するかを予測する学問。例えば、国家や集団間に過去の紛争の「記憶のせめぎ合い」が生まれた時、「どのように」対立、紛争や差別に発展したのか、プロセスを解明して理論を構築し、地域性と普遍性を見いだし、平和構築の活動に役立てます。

ここで重要なのが、「有形・無形、質的・量的な証拠」をもとに、記憶を分野横断的に考えること。自分と他者の視点を分析する力を学ぶことが、広島大学での実証記憶学の目的です。

原爆投下前後の広島市内の比較スケッチ。森冨茂雄『消えた町 記憶をたどり』より

ースツーリズムで復興の知恵も体感

人と経済を動かす観光は、平和構築に有効な手段の一つ。私は「平和と観光」を研究テーマに掲げ、広島市の観光政策部が主催する「ピースツーリズム」に推進懇談会委員として参画しています。この企画では、広島を訪れる人が現地の今と歴史を体感します。昨年、全国調査を行ったところ、現地の「証拠」にふれた訪問者ほど平和な社会を築く当事者意識が芽生え、より深く学びたいとリピーターになりやすいことがわかりました。

また、市民公開講座や国際会議を開き、市民や企業との知識と経験の交流にも力を入れています。私が皆さんに伝えたいのは、広島の記憶が「残酷さ・悲惨さ」だけでないこと。例えば、被爆者森冨茂雄さんの証言と画集には、映画『この世界の片隅に』のモデルにもなった心温まる下町の記憶が描かれています。さらに、被爆後の復興の過程が記録された資料には、逆境を乗り越え、公平な社会を作るための知恵が詰まっています。広島の現場・現物・現実を五感で感じ、平和とは何か、平和の実現のために自分に何ができるか、共に考えましょう。

平和センター主催の市民公開講座ポスター。2017年から毎年開催している

 

 

掲載紙

今回の記事は、広島大学広報誌「HU-plus」vol.19に掲載されています。
「広大 もったいなれっじ」の他にも広島大学の多種多様な研究や学生の取り組みなどを発信していますので、ぜひご覧ください。

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