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【龍谷大学】環境DNAのビッグデータを活用した、環境保護の新たな手法と可能性

なるほど!

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世界的にSDGs(持続可能な開発目標)へのコミットが重要視され、生態学の分野でも持続可能な環境改善や保護の手法に対する関心も高まっています。

そんな中、「環境DNA分析」という、生態学の新しい可能性を秘めたモニタリング手法を研究するのが、龍谷大学先端理工学部准教授の山中裕樹氏。

環境DNAとは、 河川から採取した水に含まれる、その水域に生息する魚たちが放出した粘液や排泄物由来のDNAのこと。それらを分析することで水域全体の生態系が、生き物を捕獲することなく見えてくるという。

この新しい手法が、水産資源の保護や環境改善にも寄与することから、今注目を集めています。

着想のきっかけは時間と労力のかかる生態調査へのジレンマ

もともと魚の研究をしていた山中准教授が環境DNAに着想したのは、京都の総合地球環境学研究所で魚類調査を行っていた頃。当時、魚病ウイルスを扱っていた同僚とともに野外での魚の病気への感染実態を追う調査を行うなかで環境DNAの構想が生まれたといいます。

山中准教授らは研究を進めるなかで、従来の魚を捕って行う個体調査では、調査場所によって魚の捕れ方にバラつきや取れるデータ量が限られることにジレンマを感じていました。

そこで、川や湖の水から魚に由来するDNAを回収して、そこに生息する魚の種類を推定するという新しいモニタリング手法にたどり着きます。

環境DNAは研究開始から10年というまだまだ新しい分野でしたが、たった2名で始めた研究は、生態学の新手法として国内で認知されるようになり、研究チームも大きくなっていきました。

2015年には、魚のDNAを高効率で網羅的に増幅する検出法を確立。いまや、最新のDNAシーケンサーを使えば、魚だけでなく、鳥や哺乳類に特化した分析も可能です。

コップ一杯の水だけでコンピューターが自動で分析を行い、その水域全体の生態系を明らかにすることもできるようになるのも、そう遠くない未来かもしれません。

環境DNAのサスティナビリティな活用法

環境DNAの研究は、SDGsが掲げる海や陸などの環境保全の観点からも注目されています。
環境科学は、もともと人間の身体にとって大気汚染や公害などがどのような影響を及ぼすのか、という切り口から発展してきた分野。

しかし、近年環境科学のテーマは「人にとっての環境から、人間以外の生物も含めた環境に目が向けられる段階に来ている」と山中准教授は指摘します。
現代の環境科学では、人間以外の生物に対しても環境基準(健康や生活環境保全のため維持されることが望ましいとされる基準)を定めようという「生物多様性」の考え方が広まってきています。

今後技術がより発展してどこにどんな魚がいるかが可視化できれば、環境による生物への影響が見え、生物視点での環境基準の設定やそれに基づいたより進んだ環境保全が可能となっていくと考えられています。

また、生物の生息地が可視化されることで、子どもや一般の方にとっても生物や環境科学が身近なものとなり、未来の環境保全への関心を高めるツールになると考えています。実際に、山中准教授は今年度から環境教育の一環として、環境DNA技術を一般の方にも使ってもらう活動を開始する予定とのこと。

活動の具体的な内容は、滋賀県内の協力者が近隣の水を採取し、龍谷大学にある環境DNA分析の専門機関の生物多様性科学研究センターに送付。そのサンプルのデータを分析するというもの。さらに、 協力者は自分たちが送付したサンプルデータをウェブサイトなどで確認できるような仕組みを構築中です。

ビッグデータ活用の可能性

環境DNAが注目され始めたのは、SDGsなどの時代背景だけではありません。なぜなら、環境DNAの産業活用の可能性が見えてきているからです。


実際に、アメリカでは、自動解析装置や観測装置を海や川に設置し、リアルタイムで環境DNA情報が取得、蓄積されていくシステムの研究が進んでいます。

今後データが蓄積していけば、AIを用いて魚を捕りやすい時間や場所を予測できるツールの開発も可能となるでしょう。

自動解析システムは、今はまだ高額ですが、今後ニーズが高まり地方自治体や公共団体が購入できるほどに落ち着けば、産業的な活用の可能性は計り知れません。
山中准教授は、現在、環境DNAだけでなく、RNA(リボ核酸:遺伝に関与する物質)の分析にも取り組んでいるといいます。
DNAは生物が生まれたときから変わらずに持ち続けている情報なのに対し、RNAは年齢や感染した病気、空腹の度合いなど、後天的な情報が含まれています。
RNAを分析する手法が確立すれば感染症の検出や、魚の空腹感の指標をもとに餌の調整まで可能になります。養殖の場合は調整できることで死ぬ魚も減り、水産業においてかなり有効なツールになっていくでしょう。

山中准教授は、「環境科学は、仏教系の龍谷大学らしい研究領域だ」といいます。
古くから仏教の教えには、他者がいて自分が成り立っているという思想があります。そしてそれは、生物多様性を含めた生態学や環境科学の発想に近い。
生態学は生態系のシステムの中で、どんな生き物がどういった機能を担っているかを明らかにする学問。環境DNAによる分析が進めば、これまで見えていなかった生物の関係性がわかり、その生態系が回りまわって人間にも重要な役割を果たしていたことが明らかになります。
つまり、生きとし生けるものは互いに支え合っているということを、科学の観点から証明することができるテーマといえます。
今後も龍谷大学では、SDGsの観点から生態系のシステムを解明していきます。

記事提供

この記事は、龍谷大学が運営する「ReTACTION」からご提供いただいております。詳細は下記をご覧ください。

ReTACTIONの「TACTION」は「触覚」を意味します。
SDGsを推進するためには、これまでの社会のありようを、疑うことも必要です。
いま何が起こっていて、自分には何が出来るだろうか?
今一度、感覚を研ぎ澄まし、世界に触れてみれば、持続可能な社会につながるヒントを得ることが出来るかも知れません。

また、龍谷大学が掲げる行動哲学「自省利他」は、自らを省みて他を利するという意味です。
自己中心的な考え方をあらため、他者の幸せや社会の利益を考え行動することが、社会を再構築するカギになります。
ReTACTIONは「ReTA(利他)」の「ACTION(行動)」という意味も込めています。
意識改革と実践的な活動の両輪で、龍谷大学はSDGsを推進していきます。