びわこ文化公園都市(※)に位置し、周囲に里山が広がる龍谷大学の瀬田キャンパス。1989年、日本の仏教系の大学で初めて自然科学系学部を含む総合大学として誕生しました。1991年には産官学の連携をはかりながら地域社会への貢献をめざす龍谷エクステンションセンターが開かれ、2015年には農学部を設置。社会と呼応しながら変化を続ける龍谷大学が、これから滋賀県とどう関わっていくのか。滋賀県知事の三日月大造氏と、龍谷大学の入澤学長が語り合いました。
※ びわこ文化公園都市
大津市瀬田・上田上地域から草津市に広がる丘陵地にあり、びわこ文化公園や龍谷大学、滋賀医科大学、立命館大学のほか、文化、芸術、医療、福祉、教育、研究、レクリエーション等の多様な施設が集積する総面積520haのエリア一帯
芸術・文化に対する考えを変革
————この日ふたりが訪れたのは、2017年から長期休館し、2021年6月27日にリニューアルオープンした滋賀県立美術館。「かわる かかわる」をコンセプトに、従来のアートファンはもちろん、子ども連れや近所のお年寄りもみんなが自由に集える「リビングルームのような美術館」として注目を集めています。
案内サインに信楽焼を使用、滋賀県の茶所から仕入れる日本茶や、滋賀県で焙煎されたコーヒーが味わえるカフェや、滋賀で生産されたプロダクトや食品を販売するショップも新設。さまざまなアプローチで滋賀の持つ魅力を発信しています。
三日月知事「作品を観ていただくだけではなく、よりよく生きるためにどうすればいいかを問いかける美術館をめざしています。とはいえ、まだまだ美術館という場所自体、少し敷居が高いイメージをお持ちの方もいるようです。その敷居を下げて広がりを持たせるためにも、美術館に訪れないと体験できないものだけではなく、美術館が外に出かけて企業の皆さんと一緒にモノづくりに関わる、ワークショップを行う、といった試みもしていきたいと思っています。普段はアートに関心のない学生の方にも親しんでいただけるようになれば嬉しいです」
入澤学長「私は龍谷大学の学長になる前、龍谷ミュージアムの館長をしていた経験があります。やはり一般の人たちにとって博物館、美術館という場所はまだ敷居が高いんだなと実感しました。さらに昨年はコロナ禍によって、美術館や博物館も休館にせざるを得ない状況になり、芸術活動に携わる人たちが悲鳴をあげましたよね。そんな中、去年の5月にドイツのメルケル首相が芸術家に向けて発信された『私たちはできるかぎり、あなた方を支援するように努めます。また、どれほどあなた方が私たちにとって大切であるかをお伝えしたい』という強いメッセージに心が震えました。アートはラテン語で『方法』を意味する“アルス”に由来している言葉です。もともとは絵画や彫刻だけを指す言葉じゃない、経営も医療もアートの範疇、非常に概念が幅広い言葉だったんですね。日本人のアートに関する考え方も寛容に変わるべき。そういう意味で、コロナ禍は物事のあり方について振り返り、変わる絶好の機会なのかもしれません」
三日月知事「不要不急という言葉で片付けられてしまって、コロナ禍において文化・芸術に関係するみなさんの多くは、苦しい時を過ごされたと思います。滋賀県のびわ湖ホールでは全面休業中にオペラを世界に向けて配信していましたし、現在は感染対策をしっかりした上で公演を継続しています。生きている意味を表現できる芸術活動を滋賀県は支援していきます。この文化ゾーンではウェルビーイング(※)の実現も目標のひとつに挙げています。アートに触れることは、よりよく生きることにつながると思います」
※ ウェルビーイング
肉体的、精神的、社会的、すべてにおいて満たされた状態
びわこ文化公園都市に有機的なつながりを
————滋賀県立美術館に続き、令和4年12月には滋賀アリーナ(新県立体育館)がオープンする予定。バスケットコートが3面取れ、約5千人が収容できるなど、現在と比べて約1.5倍の広さを誇るスポーツ施設が完成します。アリーナを含め滋賀の中核施設が集うびわこ文化公園都市に、地域住民の期待は高まっています。
三日月知事「びわこ文化公園都市は、琵琶湖や比叡山、湖南アルプスを望む湖南丘陵地一帯において整備を進めています。美術館、アリーナ、さらに県立図書館、龍谷大学や滋賀医科大学など点在する施設が有機的につながって、学生の方々が学ぶ楽しさを感じられるゾーンに成長し続けていけたらと考えています。びわこ文化公園都市構想は40年近く継続しているプロジェクトで、それぞれの施設が完成するインフラはかなり進んだのですが、有機的な連携は、まだまだこれからなのです」
入澤学長「現在、『脱炭素は地域が主役になる』という国の考えのもと、環境省が中心となり、脱炭素先行地域を少なくとも100か所設定しようという取り組みが進められています。たとえば、このびわこ文化公園都市にある施設で、人が連携すれば、脱炭素地域のモデルケースになるような取り組みもできるのではないかと思います。びわこ文化公園都市が、今後の街づくりにおいての提言を示すにはSDGsの視点は欠かせません。龍谷大学の瀬田キャンパスがこのびわこ文化公園都市の一役を担い、浄土真宗の精神を取り入れた仏教SDGsを推進していく上でも一帯の発信力を高めていきたいと考えています」
科学者に必要な仏教の精神
三日月知事「今は、人との関係、自然との関係、さまざまなことを省みる時期にきていると感じます。コロナが流行し出した2020年の年始、学長のご挨拶の中で『自省をともなう利他』という言葉にすごく惹かれました。龍谷大学は持続可能な社会の実現に向けて、教育機関としてさまざまなビジョンを打ち出されています。すでに周辺の大学と連携なさっていることもあるでしょうけれど、我々も一緒にプラットフォームをつくって、つないで、地域の環境を充実させていければと思います」
入澤学長「瀬田という土地に龍谷大学のキャンパスができたのは、1989年でした。その時の私はまだ非常勤講師。仏教系の大学で初めてとなる理工学部に対して、学内でもかなり賛否が渦巻いていました。ところがおもしろいことに、開設を強力に推進したのが、仏教関係の先生方だったんです。科学技術や文明はこれからどんどん進化していく、ただ進化するだけで本当にいいのだろうか。人の痛み、悲しみ、苦しみに配慮できる科学技術者を養成していくのも、仏教系大学の使命なのじゃないかと。未来を見据える視点をお持ちだったんですね。2015年には、これも仏教系の大学で初となる農学部を設置。コロナ禍を経て、さらに農学・理工と仏教をつないで発信していけたらと考えています」(入澤)
国連から発信された、「誰一人取り残さない」という普遍的なメッセージ。そして17の課題について、すべての人類が真摯に考えなければ、地球はすぐさま危機的状況になります。生き方、働き方、ライフスタイルにまで踏み込んだ変化が求められる今、SDGsが単なる流行語で終わってしまわないよう、びわこ文化公園都市で脱炭素をはじめとした持続可能な社会のためにできることを探究し続けていきたいと思います。
提供記事
この記事は、龍谷大学が運営する「ReTACTION」からご提供いただいております。詳細は下記をご覧ください。
ReTACTIONの「TACTION」は「触覚」を意味します。
SDGsを推進するためには、これまでの社会のありようを、疑うことも必要です。
いま何が起こっていて、自分には何が出来るだろうか?
今一度、感覚を研ぎ澄まし、世界に触れてみれば、持続可能な社会につながるヒントを得ることが出来るかも知れません。
また、龍谷大学が掲げる行動哲学「自省利他」は、自らを省みて他を利するという意味です。
自己中心的な考え方をあらため、他者の幸せや社会の利益を考え行動することが、社会を再構築するカギになります。
ReTACTIONは「ReTA(利他)」の「ACTION(行動)」という意味も込めています。
意識改革と実践的な活動の両輪で、龍谷大学はSDGsを推進していきます。