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『グッド・アンセスター』訳者が語る未来世代との連携”種を超えた祖先を思うことは未来世代を思うこと”【前編】

なるほど!

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目先の利益に捕らわれる「短期思考」に支配され、長期的課題や未来に配慮した行動を起こせない。このような事象は、依存症から気候変動問題まで枚挙にいとまがありません。一方で、持続可能な世界を後世へ引き継ぐために、未来世代をステークホルダーに含めて物事を決定する動きが生まれています。『グッド・アンセスター わたしたちは「よき祖先」になれるか』という書籍は、現状に警鐘を鳴らし、長期思考への転換の必要性を主張しています。まだ見ぬ未来世代といかにして連帯するのか、日本語翻訳を務めた現代仏教僧・松本紹圭氏に話を伺いました。


現代仏教僧・松本 紹圭氏
現代仏教僧。インド商科大学院(ISB)にてMBA取得。「世界経済フォーラム(ダボス会議)」Young Global Leader(2013年~)およびGlobal Future Council Member(2019)。

仏教は「よき祖先」をどう捉えてきたか

私が『グッド・アンセスター』という本を知ったのは、著者のローマン氏と国際的なカンファレンスで出会ったことがきっかけでした。本書を読み、「よき祖先になれるか」という問いに共鳴し、ぜひ翻訳して日本に紹介したいと思ったのです。それだけではなく、私自身が日本仏教というバックボーンを持ち、先祖供養などの世代間をつなぐ宗教的行事を行う僧侶だからこそ、取り組む意義があると感じました。

というのも、お寺と地域社会を次世代へ継承するために行ってきたさまざまな活動の一つが、「ご先祖様を大切にすること」の現代的な意味を問い直す取り組みだったのです。日本仏教では「先祖」、とりわけ血縁関係を重要視してきました。一方で、価値観やライフスタイルが多様化し、子どもを持たない方も当たり前に存在する今日において、「ご先祖様を大切にしなさい」という仏教の教えは、かえって苦しみやプレッシャーを生んでしまうかもしれません。日本仏教が「血縁のある先祖」を強調しすぎたのではないかと考えていました。

他にも、僧侶やそのご家族・後継者など、伝統仏教寺院で「宗教指導者」としての役割を担う方を対象に、「未来の住職塾」という学びの場を展開してきました。現在、お寺離れや檀信徒の減少など、寺院は厳しい環境に置かれています。その中で、人々に求められ、次世代に受け継がれるお寺になるために必要なものを受講者と一緒に考える取り組みです。各種のレクチャーや個別相談を通して、マネジメント的視点や宗教者としてのあり方について学び、それぞれのお寺の事業計画を作り上げます。

先人を偲ぶように、未来世代に思いをはせる

前述した2つの活動は、どちらも「次世代に引き継ぐべき仏教のあり方を再考する」という共通の目的があります。しかし、過去の世代について思うものと、未来の世代について思うものという、言わばベクトルの異なる活動として双方を認識していました。

これら2つの活動の流れが、『グッド・アンセスター』と出合ったことで1本の道筋に整理されたのです。本書は、人類が後先顧みず地球資源を浪費している現状に警鐘を鳴らし、短期思考から長期思考にシフトチェンジすべきと主張しています。命題として定められたのが、私たちが未来世代にとって「よき祖先となるにはどうすればいいか」という問いでした。

この「よき祖先」というアイデアに触れて気づかされたのは、「未来世代にとっては現代人が祖先である」という視点でした。「ご先祖様がいてこそ今の自分がいる」という過去から現在への流れを未来に照らし返すことで、「今の自分がいてこそ未来の世代がある」ことを意識できるようになります。いずれ祖先になる今の自分が未来世代のためにどうあるべきかを考え始めたとき、「祖先を思う活動」と「未来世代を思う活動」と「今の自分」がひとつの線で結ばれました。

無数のグッド・アンセスターが残してくれた「今」

翻訳するにあたって、あえて日本語では「アンセスター」を「祖先」と訳したことにも理由があります。日本仏教において先祖という言葉が「血縁としての先祖」を強調しすぎたという反省を込めて、血縁関係を超えた未来世代との連帯を表現したいと考えていました。

私たちの周りには、先人たちから受け取った恵みであふれています。この恵みは誰にもたらされたものなのでしょうか。血のつながった「ご先祖様」だけが与えてくれたものなのでしょうか。例えば、何げなく使っている日本語は、どこか一世代でも欠ければ存在しえなかったものです。つまり、自分にとってのグッド・アンセスターは血のつながった先祖だけではなく、無数の名もなき先人たちも含まれるのです。そう思うと、彼らの存在が身近に感じられるようになり、彼らのおかげで今があることに気付きます。大きな時の流れの中に自分が存在していることを自覚し、より広い視座で未来世代とつながれるのです。

ー後編につづく

『グッド・アンセスター わたしたちは「よき祖先」になれるか』

ローマン・クルツナリック 著/ 松本紹圭 訳/あすなろ書房
短期思考に支配された現代社会に警鐘を鳴らし、長期思考への転換の必要性を主張する。豊富な具体例を通して長期思考の6つの方法を説き、未来世代にとって私たちが「よき祖先」となる道を示す。

掲載紙

今回のインタビューは、東洋経済新報社と株式会社WAVEが制作した「東洋経済ACADEMIC SDGsに取り組む大学特集 Vol.4」に掲載されています。

東洋経済ACADEMIC SDGsに取り組む大学特集 Vol.4「行動の10年」の新たなステージへ 持続可能な社会実現に向け加速する「連帯・連携」

2015年に国連で掲げられたSDGs(持続可能な開発目標)。SDGsをめぐる大学の活動は、啓発、実践を経て「行動の10年」を見据えたさらなる加速と深化が求められている。それらを具現化すべく、国際社会や地域社会における「連帯・連携」もパワフルに展開中であり、各界の注目は高まる一方である。本誌は、シリーズ第4弾として、国連、政府、産業等、バラエティ豊かな各大学の連携状況を克明にレポート。SDGsによる大学教育革新の中核に迫る。