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火山とともに生きる鹿児島ならでは。 「灰」を使ったSDGsな取り組みに迫る!

なるほど!

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県民の暮らしに深く根づく火山「桜島」

私の出身は九州の最南端鹿児島県は鹿児島市。街の名所はどこかと聞かれると、必ずと言っていいほど名前があがるのが「桜島」です。元々は、鹿児島市に面する錦江湾に浮かぶ火山島だったのですが、110年前に起きた「大正の大噴火」で鹿児島県の東側・大隅半島と陸続きになりました。街の至るところから、その姿を見つけることができるシンボル的存在です。年間1,000回近く爆発している年もあり、噴煙が上がるのは日常茶飯事。県外から来られた方には大変驚かれるのですが、地元民にはなじみ深い光景です(ちなみに、鹿児島市だけでなく錦江湾に面した他の街からも見えます)。

遠くからもくっきり見える桜島の噴煙。
九州新幹線の終点、鹿児島中央駅からも望めます。

噴火警戒レベルを気にしつつも、私たちの生活は常に桜島とともにありました。なんと桜島に住んでいる方々もいるほどです。それも数千人規模で!
さて、このように県民の生活に深く根づいている桜島ですが、いかんせん近隣住民にとっては頭の痛い問題も。それは「火山灰」の存在です。桜島と市街地の距離は非常に近く、風に乗って火山灰が街中に降り注ぎます。大量の灰が建物や地面に積もり、街が灰色っぽく見える日も。洗車や洗濯はタイミングを見て行わねばなりません。コンタクトレンズ(特にハードレンズ)をつけていれば、目が痛くて外を出歩くのも難しいほど。家や庭に積もった灰はそのまま側溝などには流せないので、自治体から支給される「克灰袋(こくはいぶくろ)」に入れて捨てる必要があります。このように桜島は、県民にとって愛すべき存在であると同時に、非常に面倒な存在でもあるのです。

克灰袋に詰めた灰は降灰指定置場に捨てます。

しかし、この灰を有効利用している例もあります。代表的なものをいくつかあげてみました。

厄介ものの火山灰がこんな風に生まれ変わる!

① 陶器

県内のいくつかの窯元では、桜島の火山灰を利用した焼き物をつくっています。絶妙な色合いの一点物の品ばかりで、実用性はもちろん芸術性の観点で評価を受けているものも。たとえば、桜島の窯元・桜岳陶芸の「桜島焼き」には、まれに「銀彩」と呼ばれる独特の色彩が発現します。窯の中の陶器の並べ具合、温度の調節、酸素の加減、釉薬の配合がうまく整わないと現れないそうですが、使ううちに徐々に変化していく味わいには何とも言えないものがあるそう。

銀彩の器。一つとして同じ模様はなくまさしく一点もの。

② 灰干し

塩水に一定時間漬けた魚などを桜島の火山灰の上に敷いた特殊なセロファンに乗せます。さらにその上にもう一度セロファンを乗せ、火山灰をかぶせて、24時間以上熟成させることで、適度に水分や臭みが抜けたおいしい干物に!

灰干しされたさばの開き。
※写真は火山灰を利用したものではありません。

③ 灰の缶詰

桜島の降灰を詰めた缶詰「ハイ!どうぞ!」。甲子園の土のような発想で生まれたのでしょうか。鹿児島県のお土産の新定番となりそうです。

「ハイ!」と灰をかけた絶妙なネーミング!!

番外編:あくまき(灰汁巻き)

火山灰を使っているわけではないのですが、鹿児島県の伝統的な食べ物として欠かせないのがこれ(どうしても紹介したかったんです~!)。木や竹を燃やした灰からとった灰汁(あく)にもち米を浸し、そのもち米を孟宗竹(もうそうちく)の皮で包んで、灰汁水で数時間煮込んだお餅です。灰汁に含まれるアルカリ性物質がもち米の繊維を柔らかくし、雑菌の繁殖を抑えるため、長期保存が可能に!昔からよく食べていたこのお餅にも「灰」が関係していると知ったときには驚きました。

あくまきそのものは素朴な味。砂糖をまぶして食べていました!

県民の知恵から窺える熱い郷土愛

今回改めて桜島や火山灰の有効活用について調べる中で実感したのは、鹿児島県民の郷土愛です。桜島を望む地域に長らく住んできた私たちの祖先にとって、大噴火の不安や降灰による不便さはずっと悩みの種だったはず。でも、その環境を受け入れ、愛する姿勢が先人たちにあったからこそ、今日までこの土地に人の営みが続いてきたのだと思います。桜島の灰の有効活用、その裏には深いふるさとへの愛があることが窺えて、ますます地元・鹿児島が好きになりました!

<参考>
桜岳陶芸
農林水産省【うちの郷土料理】
垂水市公式Webサイト/魅力コンテンツ【恋する♥Tarumizu】灰詰缶「ハイ!どうぞ!」
株式会社樹楽
鹿児島県 鹿児島地域振興局【旬の宝箱】