SDGs先進国と言えば、デンマーク、スウェーデン、フィンランドの北欧3カ国が世界的に有名です。実際に、世界SDGs達成度ランキングでは、2017年の調査開始以来これらの国が上位をキープしています。
ところで、近年順位を上げてきた国があるのをご存知ですか。それは、フランスです。
今回は日本でもあまり知られていないフランスの取り組み内容について、いくつかのゴールをピックアップして紹介します。
目次
10位から2年で4位へ。フランスの大躍進
実際に、国連の持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)が発表した2019年の世界SDGs達成度ランキングでは、トップ3を北欧3カ国が占めています。
●世界SDGs達成度ランキング
2017 | 2018 | 2019 | ||||
国 | 得点 | 順位 | 得点 | 順位 | 得点 | 順位 |
デンマーク | 84.16 | 2 | 84.61 | → 2 | 85.22 | ↗1 |
スウェーデン | 85.61 | 1 | 84.98 | → 1 | 84.99 | ↘2 |
フィンランド | 84.02 | 3 | 83.00 | → 3 | 82.82 | →3 |
フランス | 80.32 | 10 | 81.22 | ↗ 5 | 81.49 | ↗ 4 |
ドイツ | 81.68 | 6 | 82.28 | ↗ 4 | 81.07 | ↘ 6 |
オーストリア | 81.42 | 7 | 79.95 | ↘ 9 | 81.07 | ↗ 5 |
ノルウェー | 83.94 | 4 | 81.17 | ↘ 6 | 80.74 | ↘ 7 |
チェコ | 81.90 | 5 | 78.72 | ↘ 13 | 80.66 | ↗ 8 |
オランダ | 79.94 | 13 | 79.47 | ↗ 11 | 80.38 | ↗ 9 |
エストニア | 78.56 | 15 | 78.32 | ↘ 16 | 80.22 | ↗ 10 |
日本 | 80.18 | 11 | 78.5 | ↘ 15 | 78.9 | → 15 |
(出典|Sustainable Development Solutions Network「SUTAINABLE DEVELOPMENT REPORT」)
表を見るとわかる通り、2017年時点では日本の1つ上の順位(10位)にすぎなかったフランスが、2019年には北欧3カ国に次ぐ4位となっています。また、2年連続でスコアを上げており、他の上位国が伸び悩む中、2年間での上昇幅も1.18ポイントと比較的大きくなっています。なぜフランスはこのような躍進を遂げることができたのでしょうか。
フランスの順位が大きく上がったのは、ゴール5(ジェンダー平等を実現しよう)やゴール10(人や国の不平等をなくそう)、ゴール13(気候変動に具体的な対策を)などのスコアが大きく上昇したからです。
低所得者や高齢者への給付金を制定
ゴール1 貧困をなくそう
この項目は、フランスがグリーン(達成)評価※を得ている項目です。
フランスでは、2015年にそれまでの低所得者向け給付金を統合する形で、「活動手当」と呼ばれる給付金を制定しました。これにより、給付金のシステムの単純化や給付範囲の拡大に成功しており、2019年には黄色いベスト運動(フランス政府への抗議活動)を受けて活動手当の増額も行っています。また、高齢者や障がい者への給付金の増額も2018年から段階的に進んでいます。
※SDSDによる達成度ランキングでは、各国のゴールごとの達成度も発表されます。
レッドは「最大の課題」、オレンジは「重大な課題」、イエローは「課題あり」、グリーンは「達成」というように、色分けによってわかりやすく表現されています。
(出典|Sustainable Development Solutions Network「SUTAINABLE DEVELOPMENT REPORT」)
平等への意識は海外領土が背景に
ゴール10 人や国の不平等をなくそう
2017年~2019年で7.25ポイントも伸びている項目で、日本との差が10ポイント近くあります。
フランスでは誰もが平等に利用できるよう、公に開かれている施設においてアクセシビリティの基準が決められています。それを満たさない場合、基準を満たすためのアジェンダを設定しなければ、最大で45,000ユーロの罰金を支払わなくてはなりません。
また、フランスの海外県・海外領土(自治権を持った国外地域の領土)には読み書きのできない住民が多くいます。そのため、教育や医療へのアクセス、職業選択などで社会的・地域的な不平等が起きないように、国家機関が主導して対策を行っています。
法律の制定で大きく進んだ男女平等
ゴール5 ジェンダー平等を実現しよう
2017年~2019年にかけて約8.5ポイントと、スコアが最も大きく伸びている項目です。また、2019年の日本が約58.5ポイントであるのに対し、フランスは約76.3と、日本とのスコア差が最も大きい項目でもあります。
1997年時点のフランスでは、国民議会議員の女性が占める割合は10.9%で、現在の日本(2019年の衆議院で10.2%)とほぼ変わらない水準でした。しかし、1999年の憲法改正時に、選挙における男女平等をうたう「パリテ条項」が追加。これを受けて通称「パリテ法」という法律が制定され、飛躍的に女性の議員が増えました。パリテ法では、男女同数の候補者を立てることや、比例代表名簿で男女を交互に配置することが、政党に義務付けられています。日本にも似たような法律はありますが、フランスでは男女平等を義務化し、違反した場合はペナルティがあるという点でより強力な法律と言えるでしょう。それでも当初は効果が薄かったのか、ペナルティの内容は年々厳しいものになっていきました。
結果、2019年におけるフランスの議会の女性割合は39.7%と、1997年に比べて4倍近くまで増加。現在ではパリテ条項の対象が職業、社会分野に拡大し、労働環境や家庭環境など、他の領域でも罰則を伴った法律が制定されています。
飴(給付金)と鞭(課税)で環境対策
ゴール13 気候変動に具体的な対策を
この項目は先進国のほとんどがオレンジ(重大な課題)以下の評価となっています。フランスや日本も例外ではなく、共にレッド(最大の課題)の評価を受けています。しかし、フランスは2017年~2019年でスコアが7.16ポイントも上昇しました。
フランスは、CO₂排出量について「2030年までに1990年比で排出量を40%削減する」といった具体的かつ高い目標を設定しています。もともと発電量の約91%を火力発電以外の発電で賄っており、発電方法の改善だけでは目標を達成できません。そのため、ガソリンなどの燃料に税金を課してCO₂排出量削減に取り組んでいます。2014年には炭素税を導入。2030年まで税率を段階的に引き上げる計画で、その税率は世界でもトップクラスです。しかし、この施策は同時にエネルギー貧困の問題を生み出してしまいました。2019年1月からの炭素税引き上げに国民は不満を募らせ、前述の黄色いベスト運動へと発展。最終的に、この運動への対策として、フランス政府は最低賃金と低所得者向けの活動手当の引き上げが行われました。
法律で男女平等に大きく近づいたフランス政府ですが、施策が毎回スムーズに進んでいるわけではありません。飴(給付金)と鞭(課税)を上手に組み合わせながら、政府の方針と民意のバランスを取っているのです。
フランスの政府主導から考える、日本の政治とSDGs
本記事で紹介した通り、フランスは政府主導でSDGs達成に向けた取り組みを推進しています。法律による義務化や罰則、課税など、他国よりも一歩踏み込んだ政策で、国民の行動を変えようとしているのでしょう。その熱量は、政府が運営するSDGsサイト「アジェンダ2030」からも感じることができます。「アジェンダ2030」では、国民への情報提供と意識啓発を目的に、基本となる17のゴールのほか、フランスでの代表的なプロジェクトや地域の取り組み、意識向上イベントなどが紹介されています。
フランス政府の取り組みは、フランスの国民一人ひとりがSDGs達成に貢献する政党を支持し、投票した結果とも言えます。日本では、社会福祉や経済政策が選挙の争点となりがちですが、国民がSDGsに関心を持てば、世界の課題解決に向けた施策を政治に反映させることができるかもしれません。持続可能な社会の実現に一歩近づくためにも、私たち一人ひとりの意識改革が求められています。
<参考>
・L’Agenda 2030 en France
・フランスにおけるパリテ ──女性の政治参画推進の技法──
・諸外国における政治分野への女性の参画に関する調査研究報告書(男女共同参画局)
・「パリ協定」のもとで進む、世界の温室効果ガス削減の取り組み⑥ ~非化石電源比率がすでに9割のフランス(経済産業省 資源エネルギー庁)
・フランスの黄色いベスト運動とは?2018年、燃料価格高騰等に対するデモが発出