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地域の魅力を活かし社会全体の幸福度アップへ。ワーケーションがもたらす効果とは?

コロナ禍によるリモートワークの普及などをきっかけに、広く知られるようになったワーケーション。地方で休暇を楽しみながら仕事を行うというこの取り組みは、受け入れ先の自治体だけでなく、導入する企業や利用者にもさまざまなメリットをもたらします。「住み続けられるまちづくりを」「海の豊かさを守ろう」「陸の豊かさを守ろう」「働きがいも経済成長も」などのSDGsゴールの達成に寄与する働き方としても注目されています。本記事では、そんなワーケーションの魅力について紹介します。

旅先がオフィスに?働き方の概念を変えるワーケーションとは

朝一番の波でサーフィンを楽しんでからオンラインで会議をしたり、家族と一緒にキャンプを楽しみながら時々ノートパソコンを開いたり。旅をしながら働くスタイル、ワーケーションが注目されています。

ワーケーションの語源は「Work + Vacation」。働きながら休暇を取得するというワークスタイルを意味し、インターネットの発展が目覚ましい2000年ごろのアメリカで柔軟な働き方の一つとして生まれました。日本では観光庁が「新しい旅のスタイル」として定義。2017年ごろから「有給休暇の取得率を上げたい」などの理由で大手企業が導入し、一部の地方自治体が地域振興の一環で取り入れ始めました。広く知られるようになったのはコロナ禍になってからのことです。リモートワークの普及に伴いワーケーションの認知度も上がり、観光庁の調査では、約8割の企業が「ワーケーションについて知っている」と答えています。

ワーケーションにはいくつかのタイプがあり、休暇型と業務型に大別されます。休暇型は福利厚生型とも呼ばれ、観光や帰省などの合間に仕事を挟むことで長期休暇が取得しやすくなり、家族との時間を持ちやすくなるなどのメリットが挙げられます。業務型はさらに細かく、①地域課題解決型、②合宿型、③サテライトオフィス型に分類されます。①では地域住民と協働し、その土地の課題解決を目指します。②は地方合宿で社内メンバー同士が議論を交わすことで連帯感を高め、新しいアイデアを生み出すきっかけにもなり得ます。アメリカ発のワーケーションにはない、日本独自のタイプです。③は地方のサテライトオフィスやシェアオフィスなどで勤務するというものです。この他に、ブレジャーと呼ばれる、出張先で延泊し観光を楽しむ働き方もあります。

雄大な自然に癒やされるひとときに、仕事のパフォーマンスも向上するはず。

地方創生だけでなく経済・産業面にも大きな恵みを

ワーケーションは経済・産業面でも各所に大きな恵みをもたらしています。ある地域では、ワーケーションを受け入れることで土地の課題を解決する新規事業が創出されました。また、観光資源に乏しく注目されてこなかった地方が、リモート設備の整備によって企業誘致に成功した例もあります。観光業界でも今やワーケーションを利用した旅行プランは有力商品の一つです。

観光庁がワーケーションの推進を宣言した2020年の国内市場規模は699億円にものぼり、以降年々拡大、2025年には約5倍の3622億円に達する見込みだといわれています(出典|日本経済新聞(電子版) ワーケーション市場、25年度に5倍3622億円の予測)。地域を活気づけることはもちろん、日本全体の景気回復にも寄与する取り組みだといえるでしょう。

地域の人々や自然との関わりが豊かな生き方をもたらす

メリットを享受できるのは企業や自治体だけではありません。参加者の効果実感について「リフレッシュできた(35.2%)」「リラックスできた(31.3%)」という結果が出ているアンケートもあり、多くの人の精神面にプラスに作用していることが窺えます(出典|クロス・マーケティングおよび山梨大学 共同調査 [レポート]ワーケーションに関する調査[2021年3月])。

マリンスポーツや温泉、キャンプなどのレジャーを楽しみ、漁業・農業体験などに参加することで、自然のありがたみを実感するよい機会にもなり得るでしょう。また、一次産業が抱える課題を知るきっかけにもなり、これまでよりもそれらを身近な問題としてとらえられるようになるかもしれません。

ワーケーションを機に移住を考える、あるいは移住を前提として試験的にワーケーションを利用するケースも考えられるでしょう。その土地について知り、地域との関係性が構築できていることで移住へのハードルも低くなるのではないでしょうか。働き方だけでなく、住まいや人間関係など、暮らしに大きな影響を与える事柄について選択肢が広がることは、豊かな生き方の実現へとつながるはずです。

 毎朝森林浴を楽しみ、仕事をスタート。そんなゆったりとした生活を体験できるよい機会に。

「三方よし」を実現し、誰もが幸福でいられる社会へ

企業におけるワーケーションの導入率は現状1割未満ですが、経験した企業や労働者からは「実施してよかった」という声が多くあるようです。情報漏洩のリスク、勤怠管理や労災処理、人事評価基準設定の難しさなど導入に際しての課題はありますが、ネットワーク技術の進歩や各種制度の整備を通して、徐々にクリアしていけるのではないでしょうか。観光庁の調査でも、前段であるリモートワークについて、導入前は難色を示す企業が多かったものの、現在は調査対象となった企業の約4割が導入しているという結果が得られています。今後、ワーケーションの普及率も上がっていくことが期待されます。

企業、自治体、利用者に「三方よし」とされるワーケーション。地域振興や観光業界の発展はもとより、景気回復や、多くの人が柔軟な働き方を経験することで国民の幸福度アップにもつながっていくことでしょう。誰もが自分に合った働き方、ライフスタイルを選択できる時代はもうそこまで来ているのです。

<参考>