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サステイナブルに「整う」ために。町と人の持続可能性を高める銭湯のあり方とは。 ―前編:風呂のはじまりはSDGsだった?―

世は空前のサウナブーム。日々の疲れを癒すため、スーパー銭湯や地域の銭湯に通っている方も多いのではないでしょうか。実は、銭湯は心身の健康に良いだけでなく、その成立過程からSDGsと強い結びつきを持っています。 本記事は、サステイナブルな観点から銭湯を再定義することをテーマにした、前後編のシリーズです。前編である今回は銭湯の歴史と、人に寄り添った銭湯の取り組みをフィーチャー。お風呂と人の営みとは、いつの時代も切っても切れないもの。そして、その陰にはSDGsにつながる考え方がありました。時を越え、人々の暮らしに寄り添う銭湯の姿を見てみましょう。

銭湯いまむかし

飛鳥時代_ SDGsが風呂のはじまり?

日本人に入浴習慣が根付いたのは6世紀の仏教伝来がきっかけです。汚れを洗うことは仏に仕える者の大切な仕事と考えられ、沐浴の必要性が説かれました。その結果、各地の寺院で施浴(=貧しい人々や病人・囚人らを対象として浴室を開放すること)が盛んになりました。家風呂はもちろん町の銭湯もなかった時代、温かい湯で体の汚れを洗い落とすひと時が、庶民にどれほどの幸福を与えたことでしょう。恵まれない人々に対して入浴を促すこの行為は、GOAL1「貧困をなくそう」GOAL3「健康と福祉」GOAL10「人や国の不平等をなくそう」につながる考え方に基づいているといえます。

奈良時代_日本初のサウナが誕生

現存する日本最古のお風呂は、奈良時代に設置された「からふろ」と呼ばれる蒸し風呂。光明皇后が、困窮者を救うために法華寺に建てたものです。光明皇后は夫の聖武天皇とともに仏教を篤く信仰し、貧者・病人など弱者救済や社会福祉に尽力した人物。貧しい人々や身寄りのない老人を救済するための収容施設である悲田院や医療施設である施薬院を設置したことでも知られており、からふろも福祉事業の一環だと考えられます。

※法華寺「からふろ」の外観 ©Hokkeji All Rights Reserved

からふろのしくみは、大きな釜に湯を沸かし、その蒸気で身体を温め、発汗を促して身体を清めるというもの。別室で沸かした湯の蒸気が床板から室内に充満する蒸し風呂形式の入浴法で、いわば古代のミストサウナです。1200年前の日本人もからふろでサウナを楽しみ、「整って」いたのかもしれません。法華寺のからふろは現在、国史跡重要有形民族文化財となっており、毎年6月には施浴体験も行われています(※2020年、2021年は新型コロナウイルス感染拡大防止のため中止)。興味のある方は訪れてみてはいかがでしょうか。

平安時代_銭湯の登場

飛鳥時代に始まった施浴は奈良時代でも継続。全国各地の寺院で、施浴が盛んに行われました。施浴によって庶民が入浴の楽しみを知ったためか、平安時代の末には、町中でお金を取って入浴させる「湯屋」が登場しました。これは現在の銭湯のルーツとなっています。

室町時代_思いやりが生んだ地域コミュニティ

施浴の取り組みは鎌倉、室町へとさらに続きました。鎌倉時代までは幕府や寺院が施浴を行っていましたが、室町時代に入ると、施浴の習慣が個人にも普及していきます。風呂のある家では人を招いて風呂をふるまい、浴後にはお茶会や酒宴を開くなど、楽しいひとときを過ごしました。「風呂ふるまい」と呼ばれ、庶民階級や地方でも盛んだったこの行動。きっと地域のコミュニティづくりにも役立ったのではないでしょうか。まさに、GOAL11「住み続けられるまちづくりを」の考え方に通じる行動だといえます。

江戸時代_住民の憩いの場に

平安時代から細々と続いていた銭湯が一気に普及したのが江戸時代です。江戸に銭湯が初めてできたのは、幕府が開かれる少し前の、城下町もまだ整備されていなかったころ。そこから急速に普及し、17世紀初頭には、「町ごとに風呂あり」と言われるほどになります。江戸の町で銭湯が増えた理由は、風が強く乾燥しやすい土地柄で火事が起こりやすく、家に浴室を持つ町人が少なかったからだと考えられています。

豪商から庶民まで城下町の人々が集まる銭湯は、身分差を気にせず、裸のつき合いができる庶民の憩いの場として親しまれました。2階の広間では客が茶を飲んだり菓子を食べたり、囲碁・将棋を楽しむことができ、庶民の社交場として利用されました。江戸時代においても、銭湯は人々のコミュニティスペースとして重要な目的を果たしていたのではないでしょうか。

山東京伝『賢愚湊銭湯新話 』より、社交場として銭湯が活用される様子
(国立国会図書館デジタルコレクションより) 

明治・大正・昭和時代_町のインフラへ

明治10年ごろ、洗い場が広く衛生的な「改良風呂」と呼ばれる銭湯が誕生。現在の銭湯の原型が生まれ、大正、昭和時代にかけて普及していきます。第2次世界大戦中は空襲や燃料不足などで銭湯の廃業が相次いだものの、戦後復興を遂げると数が急増。労働者や子どもたちでにぎわい、銭湯は町のインフラと呼べる存在でした。GOAL8「働きがいも経済成長も」GOAL11「住み続けられるまちづくりを」などに寄与していたと考えられます。

しかし昭和40年代、高度経済成長期に入って各家庭に内風呂が普及したことを受けて銭湯の数が減少します。東京都内の銭湯の数は1968年の2687軒をピークに、2022年現在では500軒を切っています。現在も利用客の減少により銭湯の数は年々減っていますが、ほかの銭湯にはない個性を打ち出したり、伝統と個性を融合させたりなど、独自の取り組みによって客数を増やしているところも多くあります。

サステイナブロ人を支える編

市民の交流も銭湯におまかせ

昔から、地域の社交場としての意味合いを持っていた銭湯。現在も本質はそのままに、時代に合わせたさまざまな取り組みが行われており、若者を呼び込む動きも活発化しています。

例えば、杉並区高円寺の老舗銭湯「小杉湯」の隣にある、会員制のシェアスペース「小杉湯となり」です。1階は食堂、2階は書斎、3階はベランダつきの個室と、目的や気分に応じて自由に利用可能。職業も年齢もさまざまな人々が集まり、自然な交流が生まれています。イベントや会員主催の部活動もあるので、交流のきっかけもたくさん。誰かと話したい人はもちろん、一人になりたい人にとっても心地よい、街に開かれたもう一つの家のような場所となっています。

※「小杉湯となり」の外観

また、愛知県豊橋市にある小さな銭湯「にんじん湯」では、近隣のレコード屋とのコラボレーション企画として、毎週金曜日にDJナイトを開催しています。心地よい音楽を聴きながらゆっくりできると、お客さんからも好評です。そのほか、銭湯のロビーをちょっとしたイベント会場に見立て、古着屋や古本屋、喫茶店と共同で「にんじんマルシェ」を開催。さまざまな人々の交流場所となっています。 自分の住む町に、銭湯を中心にした憩いの場があったら素敵だと思いませんか?

銭湯がランナーたちの強い味方に

「銭湯ラン(ランナーズ銭湯)」という言葉をご存知でしょうか。銭湯をランニングステーションとして利用する動きのことで、利用者は銭湯のロッカーに荷物を入れてからランニングすることができます。走り終わった後に銭湯で汗を流し、身も心もすっきり。東京、神奈川、埼玉、大阪、名古屋、富山など、各地に協賛店舗があります。気分転換がてらに、いつもと違うランニングコースで、銭湯ランを実践してみるのもいいかもしれません。

※イメージ画像
銭湯を利用すれば、身軽&気軽にランニングが楽しめる

災害時のインフラとしても活躍

さらに、災害時に備えた取り組みを進める銭湯も多数あります。例えば京都の五条楽園に店を構える「サウナの梅湯」では、定期的に避難訓練を実施。お客さんや地域住民とともに、入浴中やサウナ中に大地震が来たらどう動くべきかをレクチャーしています。

また、災害時、長期間入浴のできない人や帰宅困難者のため、銭湯を災害時に活用する動きも広がっています。大阪北部地震発生翌日の2018年6月19日、大阪市東淀川区で昭和湯を営む森川さんは、府内の銭湯経営者に呼びかけ、大阪北部6市の被災者に銭湯を無料で開放。6月末までに府内の57の銭湯が無料開放に賛同し、のべ1千人超の被災者が銭湯を訪れました。

いつ何が起こるか想像もつかない現代社会。いざという時のことを考えて、近くの銭湯に足を運んでみてはいかがでしょうか。地域の方との新たな出会いや、思いもよらぬ発見があるかもしれません。

※イメージ画像
日頃から銭湯に通っていれば、いざという時も頼りやすい

銭湯を通して「町」を知ろう

「恵まれない立場の人も平等に扱い、健康をめざす」「地域に憩いのスペースを」など、風呂があるところには常に、人の思いやりがありました。これは、SDGsの考え方にもつながる思いです。町や人の姿が変わっても、その性質は変わりません。数多くの銭湯が、時には地域と手を組みながら、住民を陰ながら支えています。あなたの町にある銭湯にも、町とともに積み重ねた歴史があるはず。お湯に浸かって心身の疲れを取りつつ、独自の取り組みがないか調べてみてはいかがでしょうか。

後編のテーマは「地域/地球に寄り添う銭湯」。銭湯と各自治体の連携による地域創生や、環境保全などの取り組み紹介を予定しています。

<参考>