知っていますか?「ロービジョン」のこと
最近、とある仕事を通して「ロービジョン」をテーマにした研究に触れる機会がありました。あまり聞き慣れない単語ですが、その名のとおり、眼鏡やコンタクトレンズなどでは十分に矯正できないほど視機能が弱い状態のことをいいます。ただし「全盲」ではなく、ある程度は自力で日常生活を送れてしまう故に、かえって視覚に障がいがあることが理解されにくい場合もあるようです。
そんなことを知る機会があり、考えてみれば、私たちの生活は驚くほど「視る」ことを前提に成り立っているなと痛感します。文字を読む、段差に気づく、人の表情を認識する——。通常の視力を持つ人にとってはごくごく当たり前な行動も、ロービジョン者にとっては難しく、さまざまな生活の場面で困りごとを抱えることが多々あるはずです。
恥ずかしながら、筆者がロービジョン者の日常における壁の多さを想像してみたのは、今回が初めて。これを機に、見えることを当たり前と思わず、見えづらさによって生じる課題やそれに対するサポートについて、しっかり理解してみようと思います。
まずは、ロービジョン者の日常とそのサポートを知ろう
スマートフォンの使用
ふと疑問が浮かんだときや情報収集をしたいとき、SNSでコミュニケーションを取りたいときなど、私たちは毎日頻繁にスマートフォンを使います。ロービジョン者にとっては、そうした画面をそのままの状態で読み取るのが困難な場合も多いはず。どうしているのだろうと思い調べてみると、とりわけiPhoneやiPadにはさまざまなサポート機能が搭載されているようです。
たとえば、画面全体を大きく表示できる「拡大鏡」機能や、画面のコントラストを調整して見やすくする機能、画面上の情報を読み上げてくれる「VoiceOver」など。こうした元から備わるアクセシビリティ機能を活用することで、ロービジョン者もスマートフォンを情報収集やコミュニケーションのツールとして、快適に使うことができるのです。
街中への外出
私たちにも身近でよく知られる白杖や音響式信号機、点字ブロックなどは、視覚障がいを持つ人の外出をサポートするためのもの。ロービジョン者の外出には、段差の発見が難しい、歩行者や自転車との距離感がつかみにくいなど、見えにくいことによるさまざまな身の危険が伴います。
また、視野の狭さや視力の弱さだけでなく、「まぶしさ」が見えにくさの一つの要因となることも。「屋外に出ると視界が真っ白に見える」「雨の夜は路面がギラギラ光って見えにくい」といった声もあるようです。そういったまぶしさの軽減に効果的だと知られているのが、遮光眼鏡。ただしレンズの特性で信号が黒く見えることもあるそうで、やはりロービジョン者の外出時は、どれだけ注意を払っても足りない難しさがあると感じます。
買い物
商品の値段表示が読み取りづらい、賞味期限が確認できない、調味料の区別が難しい――買い物時にも、困難はたくさんあると想像できます。
そんな時に役立つのが、前の項目でも取り上げたスマートフォン。スマートフォンには、ロービジョン者にとって便利なアプリが多数開発されています。識別したい物をカメラで撮影するとその名称を音声で教えてくれるアプリや、お札の種類を識別するアプリを使えば、買い物もスムーズに進めることができます。
他にもさまざまなアプリが開発されており、定期的に時刻を音声で知らせてくれるアプリや、GPSを用いて近くにある施設を教えてくれるアプリ、登録されている飲食店のメニューを読み上げてくれるアプリ、などなど。AIの進歩が目覚ましい近年、ロービジョン者にとってより一層使いやすいツールの誕生も期待できそうです。
日常の家事
物がたくさんある家の中で生活するときも、意識しておきたいポイントはたくさん。形状が似ている歯磨き粉と洗顔フォームは間違えないように近くに置かない、物の定位置を決める、ご飯をよそうときは白米が見やすいように黒いしゃもじを使う、食器の色をメニューによって変えるなど、細かい家事の一つひとつにも、ルールや道具の工夫が必要になります。
そうした現状に対し、製品を識別できるようにするための点字シールを開発し、視覚に障がいのある方に無償配布する活動を行う企業もあるようです。視覚障がいの有無にかかわらず、情報の不公平性をなくす活動が社会でも広がっています。
誰もが“好きなこと”を楽しめる社会へ

ここまで日常生活を過ごす上での困難やサポートについて見てきましたが、充実した毎日を過ごすには、趣味や余暇の時間も欠かせません。
ロービジョン者も楽しむことができる趣味としてまず筆者が思いついたのが、障がい者スポーツ。パラリンピックやデフリンピックなどが開催されており、その存在は世間でも広く周知されているものだと思います。実際、視覚障がい者が楽しめるスポーツはさまざまな分野に広がっています。パラリンピックの競技でいうと、陸上競技や自転車競技、柔道、水泳、トライアスロンなど。球技では、内部に鈴などを入れた音の出るボールを使う「ゴールボール」や、「ブラインドサッカー」など、独自の競技もあります。
もちろんパラリンピックを目指すわけでなくても、そうしたスポーツを楽しめるクラブは各地域に存在しており、自分の好みに合わせて楽しめるだけの選択肢が数多く用意されています。スポーツだけでなく、先ほど触れたスマートフォンアプリの開発が進む中で、ロービジョン者向けの「サウンドゲームアプリ」も登場しています。
日常生活も趣味も、近年の技術や社会的支援の充実によって、ロービジョン者が楽しめる選択肢は年々広がっていると実感しました。必要な工夫やサポートが整うことで、誰もが好きなことを諦めないでよい生活がより実現に近づいていってほしいと思います。
そのためにも、まずは私たちが知ることから。ロービジョン者の世界を想像し、一人ひとりが理解を深めるだけでも、社会の変化を後押しすることにつながるかもしれません。
<参考>
視覚障がい・ロービジョンとは
パラリンピック競技・種目一覧|パラサポWEB
iPhone、iPad用・障害のある人に便利なアプリ一覧
花王|容器の識別と便利さをめざして「家庭品点字シール」をリニューアル













