SDGsゼミリポート | サステイナブルな未来を多様な視点で探求する

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サステイナブルな旅をしよう。地域を守る観光の秘訣とは?

新型コロナウイルスの感染拡大により、大きな影響を受けた観光業界。今日ようやく旅行需要が回復の兆しを見せ、全国各地の観光地が賑わいを取り戻しつつあります。一方で、大勢の観光客が一斉に旅行に出かけることで、現地の自然環境や地域住民の生活を破壊してしまう“オーバーツーリズム”が起こる可能性も。ウィズコロナ時代には、その土地の環境や文化を守りながら旅行を楽しむ「持続可能な観光」がより一層求められるでしょう。持続可能な観光、すなわちサステイナブル・ツーリズムは、SDG11「住み続けられるまちづくりを」だけでなく、SDG13「気候変動に具体的な対策を」などのゴール達成にもつながると考えられます。今回は、「世界のサステイナブル観光地100選」に2020年と2021年の2年連続で選ばれた北海道ニセコ町、岩手県釜石市、京都府京都市の3自治体を取り上げ、持続可能な観光を実現するための取り組みを紹介します。

これからの時代に求められる、サステイナブル・ツーリズムとは

雄大な自然を感じられる景勝地や歴史的な風情を残す街並み、名産品を使ったスイーツなど、その土地土地で得られるさまざまな非日常体験は旅行の醍醐味です。しかし、マナーを守らない観光客のポイ捨てにより自然環境が破壊されたり、交通集中による渋滞に近隣住民が巻き込まれたりと、観光客の行動が観光地に悪影響を与える可能性があることを忘れてはいけません。ただ楽しい旅行ができれば良いと考えるのではなく、その土地の環境や文化が持続可能であるように配慮した旅行計画が大切です。

近年、サステイナブル・ツーリズムという考え方が注目されています。国連世界観光機関(UNWTO)によると、サステイナブル・ツーリズムとは『訪問客、業界、環境および訪問客を受け入れるコミュニティーのニーズに対応しつつ、現在および将来の経済、社会、環境への影響を十分に考慮する観光である』と定義しています。つまり、さまざまな立場の人々の生活や仕事が持続可能であるように、将来の影響にまで配慮した観光だということです。日本でもサステイナブル・ツーリズムを実現するべく、観光協会や地域住民、企業などが取り組みを行っています。サステイナブル・ツーリズムが実現できれば、自然環境の保全や第3次産業で働く人々の働きがいにもつながり、観光地が“住み続けられるまち”となるでしょう。

サステイナブル・ツーリズムと類似した言葉として、エコ・ツーリズムが挙げられます。エコ・ツーリズムとは、地域ぐるみで自然環境や歴史文化など、地域固有の魅力を観光客に伝えることにより、その価値や大切さが理解され、保全につながっていく仕組みを指します。手つかずの自然をガイドとともに巡るツアーが主流となっており、環境保全の啓発を目的とするエコ・ツーリズムは、サステイナブル・ツーリズムの一部と言えます。

持続可能な観光地の国際的な認証団体「グリーン・デスティネーションズ(Green Destinations)」では、観光による地域への影響を改善するため、2015年より「世界のサステイナブルな観光地100選」を発表しています。2021年には、日本からサステイナブルな観光の実現を目指す12の市や地域が選ばれました。中でも2年連続で選出された北海道ニセコ町、岩手県釜石市、京都府京都市では、どのようなアクションが行われているのでしょうか。1泊2日でSDGs達成に貢献しながら観光ができるプランをご紹介します。

CO₂削減により観光資源を守る北海道ニセコ町

新千歳空港から車で西へ2時間ほどの距離に位置するニセコ町。ニセコとは、アイヌ語で「切り立った崖」という意味を持ち、その名の通り周囲を羊蹄山やニセコアンヌプリなどの山岳に囲まれています。豊かな自然を生かした旅行が楽しめる北の大地・ニセコ町では、その観光資源を守るために気候変動への対策が行われています。

1日目:パウダースノーを存分に楽しむ

冬のニセコは言わずと知れたウインタースポーツの聖地です。スキーやスノーボードで、上質なパウダースノーを楽しみましょう。10年ほど前までは、駅からゲレンデまでの交通手段がタクシーに限られており、駅で多くの観光客が長時間タクシーを待つ必要がありました。そこで、観光協会が2013年より公共巡回バスサービス「ニセコ周遊バス」を開始。ゲレンデへのアクセスが便利になったのはもちろん、バスルート上にホテルや観光施設を組み込むことで飲食店や周辺施設への経済効果も高まりました。町民は無料で乗車できるため、生活の足として住み続けられるまちづくり(SDG11)にも貢献しています。

世界に誇る雪質を持つニセコ町ですが、近年の気候変動の影響により平均気温が上昇し、積雪量の減少が懸念されています。そこで、行政は観光資源を守るべく、2050年までに町が排出する温室効果ガスを86%減少させることを目標として、気候変動対策を講じています(SDG13)。例えば、公共施設にヒートポンプを設置してクリーンエネルギーを使用したり、地域エネルギー会社を設立して電力供給・熱供給に伴う地域内の経済循環を高めたり、再生可能エネルギーの利用を促進したり、といった事例が挙げられます。大切なのは、二酸化炭素削減と経済活性化を両立させること。ニセコの未来のために、町が一丸となって低炭素社会の実現を目指しています。

羊蹄山を望む美しい雪景色を守るために、
さまざまな対策が講じられています

2日目:ニセコ温泉郷で旅の疲れを癒す

ニセコ町は、古くから温泉地として知られています。ニセコ温泉郷はさまざまな泉質の温泉が点在しているという特徴があり、「ニセコ湯めぐりパス」を手に入れて湯めぐりを楽しむのがおすすめです。温泉は体が温まり健康につながることはもちろん(SDG3)、自然に湧き出した温泉を大勢の人々が使うことで、水やエネルギーの節約にもなるのです(SDG6・SDG7)。

ニセコの温泉の源泉がグツグツと湧き出る大湯沼

街全体が博物館になった岩手県釜石市

東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県釜石市では、観光を通じて震災からの復興をめざしています。「住民が生き生きと暮らせるまちこそ、真に楽しめる観光地である」という理念のもとに、釜石市全体を「屋根のない博物館」と見立てた「釜石オープンフィールド・ミュージアム」プロジェクトを実施。地域が一体となって、経済・文化・環境のバランスが考慮された住み続けられるまちづくり(SDG11)を実現しようとしています。

1日目:地域住民のガイドで釜石の海を満喫

街全体を博物館と見立てている釜石市は、市民の日々の暮らしも重要な観光資源です地域住民がガイドとなって地域の魅力を紹介するアクティビティに参加してはいかがでしょうか。「釜石湾漁船クルーズ」では、震災以前に観光船が巡っていた釜石湾を地元漁師の漁船で回ります。「釣って食べる海釣りツアー」では、地元漁師だからこそ知る穴場で釣りを楽しみ、釣りたての魚介類の絶品ディナーに舌鼓を打てるでしょう。いずれもWEBサイト「OPEN FIELD MUSEUM KAMAISHI」で提供されているツアーで、住民の釜石に住む誇りや郷土愛を育みつつ、観光客のファン化を促進し、釜石のまちを未来へつなげる取り組みです。

世界で最も深い湾口防波堤など、
釜石湾は見どころがたくさん

2日目:釜石の建築から震災について学ぶ

OPEN FIELD MUSEUM KAMAISHIでは、2019年のラグビーワールドカップで使用された釜石鵜住居復興スタジアムの見学&震災伝承ツアーも実施しています。ツアーでは、普段は入ることができないスタジアム内部も見学できます。実は、このスタジアムは震災で被災した鵜住居小学校と釜石東中学校があった場所に建てられています。ツアーの一環として、震災・津波を経験した地域住民から当時の出来事についてお話を聞いたり、スタジアムのデザインから防災について学んだりすることも可能。被災地で震災について学ぶことで、復興に貢献するとともに持続可能なまちづくりについて改めて考えたいですね。

釜石市の街並み。
高台に立つ釜石大観音が平和へ祈りを捧げています

ウィズコロナ時代の観光を模索する京都府京都市

コロナ禍以前は国内外から多くの観光客が訪れていた京都。休日には公共交通機関や寺社仏閣などの観光地が大混雑し、京都市民の生活を圧迫していました。また、ウィズコロナ時代には、多くの人々で混雑するいわゆる“3密”の状態は、感染症対策上も望ましくありません。そこで、観光地の「混雑」と「感染症対策」をまとめて解決する取り組みが京都で始まっています。

1日目:密を避けて京都の新しい魅力を発見

旅行先で行列に並んだり人込みの中を移動したりするのは、感染リスクが高くなると同時にストレスの元にもなります。たくさんある京都の観光スポットの中でも、事前予約できるアクティビティを利用すれば、混雑を避けてストレスフリーな観光ができます。京都市観光協会が運営するWEBサイト「京都観光Navi」では、京都ならではのさまざまなアクティビティが予約可能。人数制限によって3密を避けられるだけでなく、茶道や座禅など一般的な観光では経験できないアクティビティをじっくりと楽しむことで、新しい京都の魅力が発見できるでしょう。寺社で“和”のひと時を味わってはいかがでしょうか。

世界遺産の仁和寺では、
和菓子作りと茶道のお稽古が体験できます

2日目:観光快適度マップを見ながら市内巡り

金閣寺や清水寺など代表的な観光地はどうしても混みがちですが、できるだけ人が少ないタイミングで訪れたいですね。そこで、遊園地でアトラクションの待ち時間を確認するように、京都観光Naviで混雑状況を確認してから出かけましょう。京都観光Naviの「京都観光快適度マップ」ページでは、人気観光スポット周辺の混雑状況をリアルタイムで発信。どこが空いているのかを当日確認しながら、混雑を避けて観光できます。また、感染症対策を基本とした観光を普及させるため、京都市観光協会ではガイドラインとして「京都まちケット」を考案。サステイナブル・ツーリズムに対応した新しい観光のマナーを事業者や観光客に呼びかけました。

このように、ウィズコロナの京都では、WEBを通じた情報提供によって観光客をうまく分散させています。飲食店やホテルなどに携わる地域住民にとっては、再び京都に多くの観光客を迎えることは必要不可欠です。今後観光需要が高まる中、市民と観光客の安心・安全を確保し、コロナ禍の危機的な状況から脱却できるのか。また、地元住民の生活と観光のバランスをうまく保ち、住み続けられるまちづくり(SDG11)を実現できるのか。日本屈指の観光地が挑戦する最先端の取り組みに注目が集まります。

エリアごとに混雑状況が5段階で示される
京都観光快適度マップ

〈参考〉